定年後の読書『アミ小さな宇宙人』エンリケ・バリオス(著)愛の概念を宇宙にまで拡大した壮大な物語

最終更新日:2017年10月6日

宇宙人との遭遇や交流というテーマはSF小説だけでなく、「未知との遭遇」などのSF映画でも人気を集めてきました。

チリ人作家エンリケ・バリオスの小説「アミ 小さな宇宙人」もまた、世界の人々に愛されてきた名作です。

1.実話の形で書かれた不思議な物語

それまで無名の存在だったエンリケ・バリオスの名を一躍有名にした「アミ 小さな宇宙人」は、1986年にチリで出版された小説です。

チリ国内のみならず世界の11ヶ国語に翻訳され、1995年には日本語訳も登場して注目を集めました。

この作品は主人公の少年ペドロが書いた実話の体裁を取っており、小さな宇宙人アミとの交流やUFO乗船・他の星への訪問といった体験が語られています。

そのためUFOと宇宙人の存在を信じる人や超古代文明・スピリチュアルが好きな人にも熱狂的に受け入れられたほど、この作品は世界の人々に夢を与えてきました。

実話の体裁で書かれた小説は海外に限らず日本でも数多く見られるだけに、「アミ 小さな宇宙人」は子供も大人も楽しめるファンタジーと言えます。

好評を受けて「もどってきたアミ 小さな宇宙人」「アミ3度目の約束 愛はすべてをこえて」の続編も書かれ、3部作ともに日本語訳が文庫本として現在も容易に入手可能です。

2.少年と小さな宇宙人との交流

「アミ 小さな宇宙人」は大半が主人公の少年ペドロと小さな宇宙人アミとの会話から構成された物語です。

主人公のペドロは祖母と避暑に訪れていた海辺でUFOを目撃し、宇宙人のアミと知り合います。

アミの見た目は子供のように小さいですが、実は大人という設定です。

ペドロ少年はアミの案内でUFOに乗せてもらい、地球を一周したり他の星に連れて行ってもらったりします。

オフィル星では地球のアトランティス文明の子孫と称する身長3メートルの巨人が住んでいました。

宇宙人と言えばSF小説やSF映画では侵略者の役回りを演じる例も少なくありませんが、この小さな宇宙人のアミは友好的で愛を信条とするような種族です。

むしろ宇宙の中でも戦争の絶えない地球は野蛮な未開地であり、科学の水準が愛の水準を上回ったために自滅したアトランティス文明の残骸として語られます。

3.文明批評としても読める作品

小さな宇宙人のアミがペドロ少年に語る話の中には、地球人にとって耳の痛い言葉も多く含まれます。

文明の未開な星として地球を定義づける根拠とされているのは、愛に基本を置く「宇宙の基本法」です。

軍備や懲罰・競争・所有といった概念は愛が足りないために必要とされるのであって、純粋な愛の存在が神と定義されています。

そうした考え方に基いて地球の現状を眺めれば、アミの言うとおり野蛮で未開な星に見えてくるものです。

その意味で「アミ 小さな宇宙人」は一種の文明批判の書としても読むことが可能で、一見子供向けの童話のように書かれながらも、実は深い意味がこめられているのです。

この作品が子供だけでなく大人にも薦められる名作と言われるのは、作者エンリケ・バリオスの深い思索に裏付けられたこの思想性によります。

愛の概念を宇宙にまで拡大したこの壮大な物語の中に、文明批判と同時に世界平和への願いを読み取ることも可能です。

4.哲学や宗教の深い思索が根底に

作者のエンリケ・バリオスは若い頃から宗教に関わり、聖職者を目指してカトリック系学校の教育を受けてきました。

しかしながら彼は世界の宗教の現状に疑問を抱いて退学し、世界各地へ自分探しの旅に出ます。

旅を通じて人生の意味や神の存在についての思索を深めていきながら、彼は宗教ばかりでなくさまざまな哲学や心理学を学んできたのです。

愛というキーワードの下ですべての宗教を統合する思想に到達したのは、エンリケ・バリオスが40歳になる直前でした。

彼にとって小説を書くことは、自らが会得したこの真理を人々に伝える目的のための手段にほかなりません。

詩的な文体で書かれたデビュー作は不成功に終わりましたが、わずか8日間で書かれた2作目の「アミ 小さな宇宙人」が大ヒットし、世界にその名が知られることになります。

宗教や哲学に関する深い思索の成果を表現するのに、童話的なファンタジーの親しみやすい文体を選んだ点が成功の秘密です。

5.大人のファンタジーとしても人気

「アミ 小さな宇宙人」の日本語版は、表紙画と挿絵をさくらももこが担当したことでも親しまれてきました。

子供が読んでももちろん楽しめますが、大人向けのファンタジーとしても根強い人気があります。

第2次世界大戦の悲劇を乗り越えて、20世紀の後半は冷戦構造の中でも平和志向が高まった時代でした。

そうした時代風潮の中で書かれた「アミ 小さな宇宙人」は、世界に再び戦争の危機が迫り始めた21世紀の今こそ広く読まれるべき作品です。

愛と平和への願いをこめた文学作品もこれまでに数多く書かれてきましたが、その中でも「アミ 小さな宇宙人」は子供から大人まで楽しめる作品として長く読み継がれてきました。

日本ではこの作品を原作とするアニメ化のプロジェクトも進行しており、アニメ映画が実現した暁にはよりいっそうの再評価が高まると予想されます。

「アミ 小さな宇宙人」は心温まるSF小説

宇宙人が登場したり異星生物が描かれたりしたSF作品には、危険な敵と地球の英雄が闘うようなストーリーも少なくありません。

「アミ 小さな宇宙人」は映画「E.T.」のように、地球の少年と宇宙人による心温まる交流を描いた作品です。

若い頃にSF映画やSF小説に親しんできた中高年が読んでも感動できる1冊として人気を集めています。