『佐賀のがばいばあちゃん 』島田 洋七(著)で貧乏に負けない逞しさを学び定年後の年金生活を楽しむ

最終更新日:2017年10月25日

1980年代の漫才ブームで人気の中心にあったのは、島田洋七と洋八による漫才コンビのB&Bです。

その島田洋七が書いた「佐賀のがばいばあちゃん」は、シリーズ累計400万部を超えるベストセラーを記録しました。

1.映画化・舞台化もされたベストセラー作

知名度の高い芸能人が書いたタレント本はベストセラーとなりやすいものですが、その多くは人気のピーク時に出版した本の例です。

人気が落ち目の芸能人が出した本が売れたとしたら、その本によほどの話題性か魅力がある場合に限られます。

一世を風靡したB&Bは漫才ブームの終息とともに人気が急降下し、1983年の解散以降は島田洋七も表舞台から一時姿を消していました。

そんな島田洋七が自身の実体験に基いて書いた「佐賀のがばいばあちゃん」は、この時期に自費出版した「振り向けば哀しくもなく」を元に加筆修正した作品です。

2001年に現在のタイトルに改題して再出版されて以降に評判となったこの作品は、ベストセラーを記録しただけでなく映画やテレビドラマ・舞台劇の原作にも次々と採用されてきました。

一度人気が急降下した芸能人の本がこれだけ売れるのは異例の現象ですが、本を読めばその理由も納得できます。

2.がばいばあちゃんと暮らした8年の日々

「佐賀のがばいばあちゃん」は作者の島田洋七の少年時代を描いた自伝小説で、母の実家がある佐賀で暮らしていた8年間の日々が語られています。

太平洋戦争が終わって間もない頃の1950年に広島市で生まれた洋七少年は、父を原爆症で亡くして以降母の手で育てられてきました。

そんな洋七少年は小学校2年生のときに母の実家がある佐賀へと連れていかれ、広島に残った母と離れて暮らすことになります。

当時の広島はスラム化していて物騒だったため、夜の仕事をしていた自分を慕って幼い洋七が盛り場にやって来ることを母は案じていたのです。

以後は高校進学で広島に帰郷するまでの8年間、洋七少年は佐賀に住む祖母「がばいばあちゃん」のもとで成長していきます。

「がばい」とは「非常に」を意味する佐賀弁で、この祖母の性格を如実に示す言葉です。

貧乏を物ともせずに明るく逞しく生きるがばいばあちゃんの姿が、この自伝小説で生き生きと描かれていきます。

3.明るい貧乏の逸話が豊富

がばいばあちゃんの生活は貧乏そのものでしたが、その貧乏の中に暗さは微塵も感じられません。

「佐賀のがばいばあちゃん」で描かれる数々の明るい貧乏エピソードは、この作品の大きな魅力となっています。

川の上流から流れてくる野菜を拾い集めておかずにしたり、鉄くずを集めるため磁石を引きずって歩いたりするがばいばあちゃんには、読み手を圧倒する迫力があります。

そんな祖母の姿に初めは戸惑っていた洋七少年は、周囲の優しい人々にも助けられながら佐賀での暮らしに馴染んでいくのです。

貧乏を明るく笑い飛ばすようながばいばあちゃん独特の言葉の数々も見逃せません。

「人がコケたら遠慮せんと笑え。自分がコケたらもっと笑え。人はみんな滑稽なもんやから」

というがばいばあちゃんのセリフには、後にお笑い芸人として漫才ブームの立役者となる島田洋七の原点が窺えます。

4.売れっ子漫才師から人気急降下

島田洋七の人生はしばしばジェットコースターにも喩えられてきました。

それまで無名だった漫才師が1980年に始まった空前とも言える漫才ブームの波に乗り、一夜にして大スターに変身したのです。

それまでの漫才の常識を大きく変えたB&Bのスピード感あふれる漫才スタイルは、若い世代の絶大な人気を集めました。

そんな栄光の時代も長くは続かず、1982年に漫才ブームが終息するとB&Bの人気も急速に衰えていきます。

1983年に島田洋八とのコンビを解消してB&Bを解散させた後の洋七は、6年もの間テレビから姿を消していました。

その後にカムバックを果たしながら全盛時の人気は回復できずにいましたが、「佐賀のがばいばあちゃん」の元となる自伝小説を親友のビートたけしに読ませたことが大きな転機となります。

ビートたけしの助言を受けて自費出版したこの作品が後にテレビでも紹介されて大きな反響を呼び、島田洋七はベストセラー作家として見事に復活を遂げたのです。

5.貧乏に負けない逞しさを学ぶ

「佐賀のがばいばあちゃん」は映像化や舞台化もされてきたため、それらを通じてストーリーに接した人も少なくありません。

近年では又吉直樹が「火花」で芥川賞を受賞したように、お笑い芸人の中にも小説を書く人が登場するようになりました。

「佐賀のがばいばあちゃん」は文学性よりも読みやすさを重視した作品ですので、普段は小説を読まないという人も気軽にストーリーを楽しめます。

特にこの自伝小説の舞台背景となった昭和の空気を知る中高年の世代にとっては、ある種の懐かしさを感じながら読み進めるという楽しみ方も可能です。

この作品のテーマとなっている貧乏は、日本人の生活が豊かになった現在でも世の中から払拭されたわけではありません。

「佐賀のがばいばあちゃん」を読んで貧乏に負けない逞しさを学んだり、今よりも日本人が貧しかった時代に助け合いながら生きていた庶民の姿を再発見したりするのも読書の醍醐味です。

当時の作者だからこそ書けた「佐賀のがばいばあちゃん」

「佐賀のがばいばあちゃん」は売れっ子だった頃の島田洋七では書けなかった作品とも言えます。

漫才ブームに翻弄された作者の苦労多き人生が反映されているからこそ、文章にも深みが生まれるのです。

持ち前の明るさと逞しさで貧乏を生き抜いたがばいばあちゃんの姿は、本のページを開けばいつでも生き生きと動き出します。