上桧木内の紙風船上げ(秋田県仙北市西木町)は平賀源内が起源の観光客が参加できるイベント

最終更新日:2017年10月18日

秋田県では毎年2月になると県内各地でさまざまな冬祭りが行われ、数多くの観光客が訪れます。

中でも最も幻想的な光景が見られるのは、仙北市西木町の上桧木内地区で2月10日に行われる伝統行事「紙風船上げ」です。

1.打ち上げに参加も可能

紙風船と言えば普通は手のひらサイズの伝統的な玩具を思い浮かべるところですが、上桧木内の紙風船上げに使われる紙風船はそれよりも遥かに大きいものです。

長さが10メートルを超える紙風船も見られるほどで、いずれも和紙を貼り合わせた円筒状の構造をしています。

この巨大な紙風船に描かれるのは武者絵や美人画などの絵に加え、「五穀豊穣」「合格祈願」といった願い事までさまざまです。

毎年2月10日には上桧木内地区にある紙風船広場に参加者が集まり、日没後の午後6時から紙風船が順次打ち上げられます。

午後8時半頃までに合計100個の紙風船が冬の夜空に打ち上げられますが、この行事の特徴は誰でも打ち上げに参加できるという点です。

早めに会場入りすれば紙風船に願い事を書くこともできる上に、他の参加者と協力しながら巨大な紙風船を打ち上げる楽しみも味わえます。

2.一斉打ち上げの壮観

上桧木内の紙風船上げで使われる紙風船は縦長の形状をしており、打ち上げには熱気球と同じ原理が使われています。

紙風船と言っても完全に密封されているわけではなく、下部に直径1メートル以上の竹の輪が取り付けられているのが特徴です。

この輪を通してガスバーナーで紙風船内部の空気を温めて膨らませ、輪に取り付けられたタンポと呼ばれる布玉に火をつけることで熱気球のような浮力が得られます。

紙風船のサイズは最低でも3メートルに達するため、とても1人では支えきれません。

大勢の参加者が力を合わせて紙風船を支え、十分に膨らんだところで全員が一斉に手を放して舞い上がらせます。

午後6時半からの約2時間半の間に3回ほど一斉打ち上げが行われますので、その壮観は見逃せない光景です。

花火も打ち上げられる夜空をバックに数多くの紙風船が静かに浮上していく様子は、一生忘れられない思い出となります。

3.平賀源内が起源という説

紙風船上げは熱気球と同じ原理を応用したイベントのため、歴史はそう古くないように思われがちです。

実際には意外に古い歴史を持っており、その起源は江戸時代にも遡るという説があります。

平賀源内が鉱山開発の技術指導で秋田藩を訪れた際に当地にも立ち寄り、熱気球の原理を使った遊びを住民に教えたのが紙風船上げの始まりと言われているのです。

エレキテルなどの発明で有名な平賀源内は江戸時代中期に多様な分野で活躍した人で、秋田藩士の小田野直武に蘭画の技法を伝えたことでも知られています。

同様の熱気球型紙風船は中国では天灯という名で古くから通信手段として使われ始め、その後は無病息災を祈願する民俗行事として広まりました。

タイではこれがコムローイと呼ばれ、チェンマイのロイクラトン祭りで年に一度一斉に打ち上げられます。

コムローイは基本的に何も描かれていない紙風船を飛ばす行事ですが、上桧木内の紙風船上げは多彩な絵や願い事を書いて飛ばすのが大きな特徴です。

4.防寒対策が必須

有名なチェンマイのコムローイにも劣らないほど幻想的な光景が見られる上桧木内の紙風船上げは、真冬の2月に行われる行事です。

上桧木内地区のある秋田県仙北市は積雪が2メートル近くにも達する豪雪地帯で、冬場は最高気温が氷点下の真冬日も珍しくありません。

そのため紙風船上げを見に行くにも二重三重に厚着をして、万全の防寒対策を整える必要があります。

足元も雪で滑りやすくなっていますので、ゴム長靴や滑りにくい靴を履いて現地入りするといいでしょう。

会場付近には田んぼを雪で踏み固めた駐車場も用意されていますが、国道105号線沿いを始めとして当日は道路の渋滞が予想されます。

列車を使う場合はJR角館駅から秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線に乗り換え、上桧木内駅で下車したのち徒歩7分ほどで会場の紙風船広場に到着できます。

混雑を避けるためにも可能な限り列車で会場入りするのが無難です。

5.忘れられない思い出に

紙風船上げが行われる日の天候次第では、満天の星がきらめく夜空を多彩なデザインの紙風船が舞う幻想的な光景が見られます。

降雪の条件下で行われる場合でも、雪の少ない地方に住んでいる人にとっては雪と紙風船の競演も忘れられない思い出になるものです。

タンポの灯りに照らされた紙風船が夜空を乱舞する風景は、冬蛍とも呼ばれています。

自ら願い事を書き入れた巨大な紙風船を他の参加者と助け合いながら打ち上げる楽しさも、紙風船上げの魅力として見逃せません。

かつての上桧木内の紙風船上げは地域の人たちだけで伝承されていた小規模の小正月行事でしたが、太平洋戦争後は長く中断していました。

昭和49年に有志がこの伝統行事を復活させて以降に知名度が高まり、東北の冬祭りを代表するイベントの1つとして全国から観光客が訪れるようになったのです。

紙風船上げといっしょに秋田のイベントを楽しもう

上桧木内の紙風船上げと同時期の秋田には横手のかまくらや六郷の竹打ち、角館の火振りかまくらなどの冬祭りが目白押しです。

多彩な小正月行事が行われる中でも、紙風船上げは観光客が参加できるイベントとしても人気を集めています。

近くのたざわこ芸術村には宿泊施設もあり、わらび座ミュージカルや温泉・グルメも楽しめます。