「奈良にうまいものなし」という言葉をどこかで耳にしたことがあります。
これは奈良にゆかりのある文豪、志賀直哉が随筆のなかで奈良について「食ひものはうまいもののない所だ」と言及していたためだと言われています。
しかし、実は奈良特有のおっとりした気風で強いインパクトをもって売り込まれないだけで、美味しいもの・ご当地グルメはたくさんあります。
そのなかで今回は死ぬまでに一度は食べたい、歴史と魅力たっぷりのご当地グルメ「柿の葉寿司」を紹介します。
1.そもそも柿の葉寿司ってどんなもの?
柿の葉寿司というのは、一口大の酢飯にサバなどの切り身を乗せて、柿の葉で包んだ押し寿司のことです。
ころんとした愛らしい見た目をしており、食べるときはひとつずつ柿の葉を剥がして食べます。
口に含めばぎゅっと旨味が凝縮されたサバの絶妙な塩加減、酢の酸味と米の旨味や甘み、そしてふんわりと香る独特の柿の葉の香り。
これらは噛みしめるほどに味わい深いハーモニーを奏でます。
まさに奈良の「うまいもの」と言えるでしょう。
では、この手のひらに乗るご馳走はどのようにして生まれたのでしょうか。
2.柿の葉寿司の歴史
柿の葉寿司が生まれたのは江戸時代。
紀州の漁師は、近海で獲ったサバなどの魚を紀ノ川や熊野川の航路を利用して大和で行商していました。
当時、海のない大和では海産物は非常に貴重なものでした。
そのため奈良の山間部、吉野や五條といった地域を中心に、貴重な魚を大切に薄くすいて、米とともに食べるというのが祭りのご馳走として欠かせないものとされてきました。
その際、魚が傷んでしまわないように大量の塩でしめ、乾燥してしまわないように渋柿の葉で包み、空気に触れないよう重石を乗せて発酵させる。
そんな柿の葉寿司の原型が生まれたのです。
豊かな自然のなかで育まれた山の柿、海の魚、大地の米が三位一体となって生まれた、なんとも贅沢なご馳走です。
3.柿の葉寿司のチカラ
乾燥しないようにと身近な柿の葉で包まれていた柿の葉寿司ですが、実は柿の葉で包むことにで得られる様々な効果があったのです。
柿の葉はビタミンCとポリフェノール(タンニン)を多く含んでいますので、抗菌・抗酸化作用があり、魚と米をより長く保存することができます。
そのため作った翌日が食べごろと言われ、柿の葉の芳醇な香りがたっぷりとしみこんで熟成します。
魚は多くがサバで、DHAやEPAを多く含んでいます。
これらは血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らし、脳の活動を助け、動脈硬化を防いでくれます。
また酢飯に含まれるお酢も健康食品として脚光を浴びています。
お酢は疲労回復、肥満防止、高血圧の予防、血行の改善などの効能があり、米と一緒に摂取することで血糖値の上昇を緩やかにしてくれるという効果も期待できます。
最近は、柿の葉寿司のお店の方でも使用する魚の塩を控えめにして、減塩志向で作っておられるようですので、塩分の取り過ぎについてもご安心くださいね。
柿の葉寿司にはまさに身体を「錆びさせない」効果がいっぱい。
美味しいだけではなく、すごいチカラが秘められていたのです。
4.現代、進化する柿の葉寿司事情
柿の葉寿司は明治時代まではサバで作られていましたが、柿の葉寿司の老舗「平宗」がサケを柿の葉寿司に採用したことで、現在ではサバとサケが二大定番ネタとなりました。
また、定番の二種に加え、店ごとに工夫を凝らした柿の葉寿司が展開されています。
例えば、「たなか」の柿の葉寿司には鯛が使われています。
ほんのりピンクの鯛の柿の葉寿司は見目も愛らしい華やかさで、甘酢でさっぱりと食べられます。
また前述の「平宗」は鯛、アナゴ、エビ、ウナギ、数の子、赤飯など様々な種類の柿の葉寿司を展開しています。
包まれた柿の葉をひとつほどくたびに驚きに溢れます。
「ヤマト」も鯛、椎茸、アミエビ、鶏肉のそぼろ、のどぐろなどを詰め合わせたセットを販売しています。
並べたときの彩りが非常に鮮やかで、思わず笑顔になってしまいます。
「山の辺」は柿の葉にこだわりあり、です。
蓋を開けた瞬間、赤や黄色に紅葉した柿の葉で包まれた柿の葉寿司に宝箱を連想されることでしょう。
まさに料理の芸術品です。
他にも「やっこ」「ゐざき」「うめもり」「ひょうたろう」「醍予」「よし乃」などの有名店もファンが多く、それぞれこだわりの柿の葉寿司を販売しています。
また、奈良の吉野の方ではまだ祝いの日には自宅で柿の葉寿司を作っておられるご家庭もあります。
奈良に行ったら柿の葉寿司を味わってみよう
奈良の贈答品、土産物、そして家庭でのお祝いの席に欠かせない柿の葉寿司。
近鉄・JR線の奈良駅や、市街地の至る所で販売していますので、旅のお供にもどうぞ。
また、たくさんの店舗がお取り寄せグルメとして通販もやっています。
是非一度、ご賞味いただき、奈良の伝統と、文化のつまった郷土の味をじっくりと味わってみてくださいね。