猊鼻渓(岩手県)は優雅な舟下りが楽しめてシニアに人気

最終更新日:2017年11月17日

岩手県一関市の猊鼻渓は大正時代に名勝指定を受けていたほど有名な観光地ですが、全国的には明治期まで無名の存在でした。

東北の耶馬渓とも称される猊鼻渓は、優雅な舟下りが楽しめる点でもシニアの人気を集めています。

1.川沿いに奇岩の連なる景勝地

猊鼻渓は岩手県内陸南部に位置する一関市の東山町にあって、北上川の支流・砂鉄川に沿った全長2キロほどの渓谷です。

周囲の岩石は侵食されやすい石灰岩を主としており、砂鉄川の流れがカルスト台地を溶食して深い谷を形成するに至りました。

川沿いの切り立った岸壁の高さは50メートルを超え、複雑に曲がりくねった流れに沿って鏡明岩や藤岩・あまよけの岩などと名づけられた数々の奇岩が見られます。

「猊鼻渓」という風変わりな地名の由来となった獅子ヶ鼻は、岸壁の中腹に突き出した獅子の鼻のような形をした奇岩です。

川沿いではこうした奇岩に加えて龍門の滝や大飛泉などの滝や泉も至るところに見られ、ここが日本だということを忘れるほどの奇景を楽しむことができます。

奇岩の連なる景勝地としては大分県中津市の耶馬渓が有名ですが、東の耶馬渓とも称される岩手県一関市の猊鼻渓は優雅な舟下りを楽しめるのが大きな特徴です。

2.四季を通じて楽しめる舟下り

東北地方の河川で舟下りが楽しめる観光スポットとしては、「五月雨をあつめて早し最上川」という芭蕉の句でも知られた山形県の最上川も知られています。

岩手県の猊鼻渓は深山幽谷に佇む奇岩の中を手漕ぎの舟で往復できる点が最大の魅力で、切り立った岸壁の間を縫うようにしながら間近に眺める絶景は格別です。

JR大船渡線の猊鼻渓駅から舟発着場までは徒歩5分ほどで、1日に7便から10便ほどの舟下り定期便が運行されます。

四季を通じて舟下りが楽しめる点でも猊鼻渓は人気を集めており、季節ごとに異なる表情を見せる大自然の素晴らしい風景を舟で味わうことができます。

初夏には鮮やかな新緑、秋は紅葉、冬は雪景色の中で見る奇岩の数々は写真好きのシニアにとって絶好の被写体です。

船頭の歌う猊鼻追分の朗々とした調子も聞きもので、観光解説とともに90分間の舟下りを飽きさせません。

3.こたつ舟や茶席舟も人気

シニアの団体客にも大人気の猊鼻渓舟下りには、季節限定で茶席舟やこたつ舟も運行されています。

茶席舟は新緑と紅葉のシーズンに限って運行される風雅な舟です。

新緑や紅葉の素晴らしい風景の中をゆっくり舟で進みながら、風流な抹茶を味わうことができます。

全国ではさまざまな形で野点の茶席が開かれていますが、これほどの風景を楽しみながら同時にお茶をいただくことができる機会は滅多にありません。

12月から2月まではこたつ舟が運行され、温かい豆炭あんかのこたつに入りながら鍋や釜飯を味わうことができます。

雪に覆われた猊鼻渓の風景はまるで水墨画のようで、新緑や紅葉の季節とはまた違った味わい深さが見られるものです。

4.観光地として開発された経緯

このように現在の猊鼻渓は舟下りを柱とした観光地として整備されていますが、江戸時代まではほとんど無名の存在でした。

全国に知られていなかったばかりではなく、地元でさえその存在を知らない人が少なくなかったほどの秘境だったのです。

現在では交通機関が発達したおかげで猊鼻渓にも訪れやすくなりましたが、かつては人跡稀な深山幽谷とあって、江戸時代に藩の役人が探勝に訪れた際には案内するのも地元住民にとって一苦労でした。

そうした事情からこの景勝地が長く隠されてきましたが、明治以降は徐々に知られるようになります。

大正末期には猊鼻渓が国の史蹟名勝天然記念物として指定され、それ以降は観光地として整備されました。

猊鼻渓の開発と景観保存に尽力したのは、地元東山町出身の政治家・教育者の佐藤猊巌です。

幕末期から明治期にかけて放浪の画家として活躍した蓑虫山人も猊鼻渓を広く宣伝した他、田山花袋や井上円了ら多くの文人墨客が当地を訪れています。

5.予約が必要なケース

猊鼻渓まで行くのに交通機関を利用する場合は、東北新幹線一ノ関駅からJR大船渡線に乗り換え、猊鼻渓駅で下車するのが便利です。

車でのアクセスは東北自動車道一関ICから県道19号線でおよそ30分、水沢ICからは国道343号線から県道を経て40分ほどかかります。

舟下りには基本的に予約なしで乗ることができますが、15名以上の団体客は予約が必要で、定期便以外に臨時便が増発されます。

こたつ舟の場合では、舟代込み3300円ほどの料金で利用できる木流し鍋コースも予約が必要です。

こたつに温まりながら鍋も楽しみたいという人は検討してみるといいでしょう。

雨天時や冬期間は屋形船が運行されるため、雨や雪を気にせず猊鼻渓の風景が楽しめます。

砂鉄川の流れは緩やかで水深も浅くなっていますが、舟下りの際には念のため救命胴衣の着用が必要です。

季節を変えてなんども訪れたい猊鼻渓

舟下りが楽しめる観光スポットも全国各地にある中で、猊鼻渓は四季ごとに変化に富んだ絶景が楽しめる人気の名所です。

一生に一度は見ておきたい風景ですが、新緑と紅葉・雪景色それぞれに違った味わいがあります。

一度舟下りを楽しんだ人はまた別の季節に訪れ、風景の変化を味わいながら風雅なひとときを過ごしているものです。