「盛岡冷麺」(岩手県)辛い食べ物が好きな人は一度食べると病みつきになる

最終更新日:2017年10月18日

岩手県の県庁所在地・盛岡市は麺が盛んな街で、「盛岡三大麺」と呼ばれる独特の食文化が花開いています。

じゃじゃ麺やわんこそばとともに盛岡三代麺の1つに数えられるのが、昭和期に盛岡で発展してきた盛岡冷麺です。

1.日本人の舌に合わせて進化

盛岡冷麺と似た冷製麺料理に韓国冷麺もありますが、盛岡冷麺はこの韓国冷麺をルーツとしながらも、日本人の味志向に合わせて独自に改良されてきた歴史を持ちます。

盛岡名物として知られるこの冷麺は、太平洋戦争後に在日朝鮮人1世の青木輝人氏が作り始めたのが起源です。

当初は青木氏の故郷・咸興式の麺を提供していましたが、コシが強すぎて噛み切れない咸興冷麺は日本人になかなか受け入れられませんでした。

その後青木氏は日本人に合わせて麺やスープを独自に進化させ、盛岡市民の間でも好評を得ていきます。

コシの強い麺に濃厚なスープとキムチのトッピングを加えた盛岡冷麺のスタイルは、この青木氏の店で確立されたのです。

昭和50年代以降は広告戦略や地元盛岡で開かれた「ニッポンめんサミット」のイベント出展が功を奏して、盛岡冷麺の知名度は全国区へと高まりました。

2.韓国冷麺との違い

盛岡冷麺が他の麺と異なる最大の特徴は、何と言ってもコシの強い独特の麺にあります。

韓国の冷麺は地方によって麺の材料が異なり、平壌発祥の冷麺は蕎麦粉に緑豆粉を加えて作られた太くて黒っぽい麺です。

盛岡冷麺のルーツとなった咸興発祥の冷麺はジャガイモやトウモロコシのデンプンを材料としているため、細く白っぽい代わりにコシが強すぎて噛み切りにくい特徴が見られます。

盛岡で最初に冷麺を作り始めた青木氏の例でも、当初は噛み切りにくさのあまり麺をゴムに喩えられて酷評されたほどです。

改良に改良を重ねた現在の盛岡冷麺は、コシの強さと喉ごしの良さを兼ね備えた絶妙の硬さの麺が使われています。

咸興冷麺にはスープなしで食べるピビン麺と辛くないスープの水冷麺の2種類がありましたが、青木氏はこの2つを独自にアレンジして盛岡冷麺を考案しました。

結果としてキムチの辛さを加えた濃厚な牛骨スープでコシの強い独特の麺を味わう盛岡冷麺が誕生したのです。

3.盛岡冷麺独自の味わい

盛岡冷麺はその名の通り冷やして食べる麺料理ですので夏には特に人気ですが、盛岡市民は1年を通して冷麺を食べています。

独特の歯ごたえとツルツルした食感を兼ね備えた麺の味わいは、シニア世代の人たちにも好評です。

牛骨からだしを取った濃厚なスープにキムチの辛味と酸味が加わり、すっきりした味のハーモニーが楽しめる点も盛岡冷麺の魅力として見逃せません。

麺の見た目も韓国の冷麺には蕎麦粉が使われているため黒っぽいですが、盛岡冷麺は蕎麦粉を抜いてあるのでいかにもおいしそうな白い麺です。

盛岡冷麺はキムチの量を増減させることで辛さを調節できる点も特徴で、特辛・辛口・普通といったメニューで辛さを指定できます。

キムチが別皿で出されて辛さを自分で調節できる「別辛」も人気メニューの1つです。

食後にスイカやリンゴ・梨など季節の果物を口直しとして出してくれる店も少なくありません。

4.盛岡冷麺が食べられる店

盛岡市内には本場の盛岡冷麺が味わえる店が数多くあり、麺やスープは店ごとに特色があります。

盛岡冷麺に欠かせないコシが強い麺は専用の機械を使って麺の太さに合わせた穴から生地を押し出して作られますが、人気の店ではこの麺打ち作業にも手間をかけています。

製麺所で作られた盛岡冷麺は一般のスーパーでもスープ付きで売られているため、市民は家庭でも冷麺を手軽に味わってきました。

袋入りの盛岡冷麺はインターネット通販サイトでも注文できますので、盛岡市までなかなか行く機会がないという人は試してみる価値があります。

その気になれば全国どこでも盛岡冷麺を味わえるとは言え、やはり本場の味は別格です。

東北地方に旅行する機会があったら、盛岡市まで足を伸ばして市内の盛岡冷麺専門店や焼肉店で冷麺を味わってみるといいでしょう。

盛岡冷麺発祥の店として知られる「食道園」や、盛岡冷麺の名を初めて使用したと言われる焼肉店「ぴょんぴょん舎」などが特に人気の店です。

5.一度食べたら忘れられない味

公正取引委員会では「名産・特産・本場・名物」等の表示が可能な10品目の麺料理を指定しています。

札幌ラーメンや信州そば・名古屋きしめん・長崎チャンポン・讃岐うどんなどと並んで、盛岡冷麺もその10品目の1つとして承認されました。

他の9品目はいずれも温めて食べる麺料理ですが、盛岡冷麺はこの中でも唯一の冷静麺料理です。

朝鮮半島にルーツを持ちながらも盛岡の地で日本人の味志向に合わせて独自に進化を遂げた盛岡冷麺は、韓国冷麺とはまた違った味わいを持ちます。

盛岡市内では一般の食堂や居酒屋でも盛岡冷麺がメニューに加えられている店が多く、冷麺の味は市民の間で広く親しまれてきました。

盛岡市に行けば冬でも冷麺の味を楽しめますので、まだ食べたことのない人は一度味わってみるといいでしょう。

特に辛い食べ物が好きな人にとっては、盛岡冷麺は一度食べると病みつきになると言われるほど忘れ難い味です。

岩手県を訪れ、盛岡冷麺を食べ比べてみよう

本場の盛岡冷麺にも店によって麺のコシと太さやスープの製法、付け合わせる具材などが異なります。

そうした店ごとの味の違いを食べ比べるのも、盛岡市を訪れる際の楽しみの1つです。

最近では全国に韓国料理の店が増えて冷麺を手軽に楽しめるようになりましたが、日本の食文化として定着した盛岡冷麺の味は格別なものです。