疾走する馬の上から鏑矢を射る流鏑馬の行事は全国各地に残されていますが、中でも最も有名なのは鎌倉市鶴岡八幡宮の流鏑馬です。
この流鏑馬神事は源頼朝の時代に始まったと伝えられているほどの古い歴史を持ちます。
1.源頼朝以来800年の歴史
戦国時代に鉄砲が伝わって以降も伝統の弓術は、小笠原流や武田流などの流派を介して現在まで脈々と伝承されてきました。
そうした故実に則った伝統的弓術を一般の人が見る機会はそれほど多くありませんが、全国各地で開催される流鏑馬の神事はその貴重な機会に挙げられます。
一種のスポーツとして腕前を競う流鏑馬も多く行われていますが、鎌倉市鶴岡八幡宮の流鏑馬は厳粛な神事として実施される点が特徴です。
鶴岡八幡宮では4月の鎌倉まつりに武田流、9月の例大祭では小笠原流の流鏑馬がそれぞれ行われます。
いずれも古式ゆかしい伝統行事で射手の狩装束姿も勇ましく、大人の背丈ほどもある弓や美しい矢なども見ものです。
鶴岡八幡宮の流鏑馬は1187年に源頼朝が始めたという記録が「吾妻鏡」に残されており、そのときから現在まで800年以上も続けられてきました。
2.流鏑馬の行われる鶴岡八幡宮
神奈川県鎌倉市にある鶴岡八幡宮は、源氏と鎌倉武士を守護する八幡神として応神天皇・比売神・神功皇后の3柱の神を祭神とする八幡神社です。
鶴岡八幡宮はJR・江ノ島電鉄の鎌倉駅から若宮大路または小町通りを10分ほど歩いた先にあります。
大分県の宇佐神宮・京都の石清水八幡宮と並んで三大八幡宮の1つにも数えられる鶴岡八幡宮の歴史は、平安時代後期に源頼義が京都の石清水八幡宮を鎌倉の地に勧請したのが始まりとされています。
平安時代末期に平家打倒のため挙兵した源頼朝が現在地に鶴岡八幡宮を移し、武運を祈る鎌倉武士たちの信仰を集めてきました。
現在の鶴岡八幡宮は境内が国の史跡に指定されている他、江戸時代後期に再建された本宮も重要文化財に指定された歴史的建造物です。
この鶴岡八幡宮では1年を通じてさまざまな行事が行われますが、中でも流鏑馬が行われる4月の鎌倉まつりと9月の例大祭には大勢の見物客で境内が埋め尽くされます。
3.鎌倉まつりの流鏑馬神事
鎌倉まつりは例年4月の第2日曜日から第3日曜日まで鶴岡八幡宮を中心に開催され、神輿や囃子が連なる行列巡行と「静の舞」や子ども創作能など多彩な行事が行われます。
最終日に鶴岡八幡宮境内で奉納される流鏑馬神事は、鎌倉まつりの中でも一番人気の行事です。
流鏑馬に先立つ儀式には舞殿で行われる「鏑矢奉献・願文奏上の儀」と、馬場入り前の「天長地久の儀」があります。
天下泰平や五穀豊穣を祈念する「天長地久の儀」に続き、馬場入りした射手が馬を全力疾走させる素馳が行われます。
そうして足慣らしをしたところでいよいよ奉射が始まり、疾走する馬を操りながら季節の花が添えられた的に向けて矢が放たれるのです。
鎌倉まつりで流鏑馬を披露する武田流の弓術は、弓馬四天王の1人に挙げられるほど弓の名手だった武田信光から安芸武田氏・若狭武田氏・細川氏へと継承されてきました。
NHK大河ドラマの演技にも協力している武田流弓術を、流鏑馬でじっくり味わってみるといいでしょう。
4.鶴岡八幡宮例大祭の流鏑馬神事
毎年9月14日から16日の3日間に行われる鶴岡八幡宮例大祭は1187年に源頼朝が行った放生会を起源とする行事です。
このときの放生会では流鏑馬も催されましたが、実施に当たって頼朝は西行法師から流鏑馬に関する故事を習ったと伝えられています。
和歌や弓馬の指南を受けた西行に頼朝は銀で作られた猫を贈りましたが、西行がその銀の猫を館の外で遊んでいた子供に玩具として与えた逸話は有名です。
現在の例大祭は9月14日の浜降式と宵宮祭に始まり、15日の例大祭と神幸祭を経て、流鏑馬神事は16日に古式ゆかしく執り行われます。
例大祭の流鏑馬神事は小笠原流ですが、流鏑馬に先立って祝詞の奏上が行われる点など、武田流との違いも見どころの1つです。
武田流は紙製の花的を射るのに対して、小笠原流では板的を使用するという違いもあります。
250mほどの馬場を射手が馬で駆け抜けながら3つの板的に次々と射抜く気合の凄まじさは、目の前で見ることで肌身に感じられるものです。
5.流鏑馬以外の行事の見どころ
春の鎌倉まつりと秋の例大祭で1年に2回一般参詣者向けに披露される鶴岡八幡宮の流鏑馬は、どちらも大人気のため境内は混雑します。
観覧場所はすべて無料の立見席ですので、当日は早めに鶴岡八幡宮の境内に入って良い場所を確保することが欠かせません。
秋の例大祭では最終日の流鏑馬神事がハイライトとなりますが、鎌倉市に数日滞在して宵宮祭や神幸祭を見るのも楽しみ方の1つです。
9月15日には神前に鈴虫が添えられ、舞殿で雅楽演奏と巫女の神楽舞による鈴虫放生祭の儀式が行われた後に、鈴虫が境内の林へと放たれます。
同日に行われる神幸祭では神輿3基を含む数百メートルにも及ぶ行列が二の鳥居までの若宮大路を練り歩き、見物客を魅了する歴史絵巻が繰り広げられます。
そうした数々の行事を経た最終日のクライマックスとして、伝統の流鏑馬神事が鶴岡八幡宮境内で大勢の見物客を前に披露されるのです。
鶴岡八幡宮の流鏑馬を見にいこう
鶴岡八幡宮や建長寺など多くの歴史的建造物が点在する古都鎌倉は、シニアの定年後の旅先としても人気があります。
歴史を感じさせる街並みが魅力の鎌倉市を訪れるなら、鶴岡八幡宮で流鏑馬神事が行われる日が最適です。
源頼朝の時代から同じ場所で今なお続けられている流鏑馬神事は、歴史好きのシニアにとって見逃せません。