定年後シニアの読書『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン 』リリー・フランキー(著)で母と子の間の強い絆に感銘

最終更新日:2017年10月7日

2005年に出版されたリリー・フランキーの「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」は、200万部を超える大ベストセラーとなりました。

映像化もされたこの作品は、親子の愛情を感動的に描いた自伝的小説です。

1.200万部を上回る大ベストセラー

プロの小説家や評論家といった偉い選考委員の先生方ではなく、現役書店員の投票で受賞作が決まる本屋大賞は、本当に面白い作品だけが選ばれることで知られています。

毎年話題となる本屋大賞の第3回受賞作が、この「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」でした。

賞の話題性もあって本は売れに売れ、2006年から2007年にかけて単発ドラマや連続ドラマ・映画に次々と映像化されたのです。

「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」の主人公「ボク」は作者自身で、「オカン」と呼ぶ母親や「オトン」と呼ぶ父親との交流を中心に青春の日々が綴られています。

ユニークな活動を続ける作者の自叙伝とも言える内容ですが、特に母親を東京に呼び寄せて母子で過ごした日々は涙なしには読めないとまで言われて評判になりました。

2.東京タワーが象徴するもの

この作品では「オカン」と「オトン」が重要な役割を果たしていますが、タイトルにもある東京タワーも主人公にとって心の支えとなる存在です。

地方出身者にとっての東京タワーは東京に対する憧れの象徴であると同時に、見上げればいつもそこにあって、主人公を見守ってくれる親のような存在として描かれています。

故郷の九州にオカンを残してひとり東京に出てきたボクは、オカンを連れて東京タワーの展望台に上ることを夢見ながら貧乏暮しを続けてきました。

努力の甲斐があって事務所を構えるまでに出世したボクは、ある事情からオカンを東京に呼び寄せて一緒に暮らすことになります。

ユーモラスな前半から感動の後半へと続いていくところに、口コミでも評判が広がった「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」の魅力が隠されています。

3.強い絆で結ばれた母と子の愛情

「それはまるで、独楽の芯のようにきっちりと、ど真ん中に突き刺さっている」という書き出しで始まるこの作品は、作者の育った複雑な家庭事情を抜きには成り立たない小説です。

序盤でいきなりオトンの酒乱エピソードが語られ、オカンが主人公のボクを連れて筑豊の実家に戻る伏線が張られています。

以後女手ひとつで主人公を育ててくれたオカンの強烈な人物像は、作中でも圧倒的な存在感を放っています。

上京してからの主人公が送る自堕落な日々のユーモア漂う描写も、数々のユニークなエッセイを書いてきた作者ならではの味わいです。

それ以上にオカンを東京に呼び寄せてからの展開が、多くの読者の感動を誘ってきました。

父親と離れて育てられなければならなかった作者ならではの、母と子の間に結ばれた強い絆が読む者の胸を強く打つのです。

4.作者のマルチな才能

作者のリリー・フランキーはイラストレーターやエッセイスト・ミュージシャン・俳優などマルチな才能を発揮し、既成の枠に収まりきらない活動を続けてきました。

それまでの著作はエッセイ集やコラム集・絵本が大半でしたが、「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」の2年前には「ボロボロになった人へ」と題する短編小説集を出しています。

「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」は作者が編集に関わっていた雑誌の連載を書籍化した作品ですが、連載開始当初は「連載長編エッセイ」と称していました。

途中から「エッセイ」が抜け、自伝小説としての色彩を濃くしていきます。

リリー・フランキーがそれまで書いてきたエッセイやコラムと色合いがまったく異なる本作は、完成までに4年を費やしたと言われるほどの力作です。

マルチな才能を持つリリー・フランキーが直球勝負で書いた「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」は、普段小説を読まないような読者層にまで感動の渦を巻き起こしたのです。

5.次々と映像化された感動作

200万部という記録的売上をマークした「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」を、テレビ業界や映画界も放っておくはずがありません。

原作が出版された翌年の2006年には早くも単発ドラマとして映像化されましたが、演出を担当したのはこの年の3月に亡くなった久世光彦です。

演出家としてだけでなく小説家・プロデューサーとしても活躍し、芸能界に多大な影響力を発揮した生前の久世光彦もまた、「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」を激賞しています。

「これは、ひらかなで書かれた聖書である」とまで言い切った久世光彦にとって、「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」を原作としたこのドラマは最後の作品となりました。

以後も連続ドラマや映画の原作にこの作品が取り上げられ、いずれも大ヒットを記録しています。

そうした映像を観て感動したという人でも、リリー・フランキー独自の言語感覚が文章で味わえる原作小説を読めば、新たな感動が得られるものです。

ひらがなで書かれた聖書とまで評された「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」

「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」が売れていた当時は「泣ける小説」という売り文句が広まったため、恥ずかしさから読まずにいる人も少なくありません。

それから10年以上経った現在でもこの作品の単行本や文庫本は新刊で手に入りますので、未読の人は書店やネット通販で購入して一度読んでみるといいでしょう。