熊野古道(和歌山県)は定年後シニアの聖地巡礼にぴったり

最終更新日:2017年12月25日

若い世代ではアニメの聖地巡礼が盛んですが、日本人にとっての聖地巡礼と言えば熊野詣がお伊勢参りと並んで有名です。

熊野三山への参詣道として賑わった熊野古道は、山歩きを趣味とするシニアの人気を集めています。

1.世界遺産にも登録された熊野参詣道

熊野信仰の中心となる熊野三山とは、和歌山県にある熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社という3社の総称です。

熊野三山は古くから天皇家や貴族の間で信仰を集め、参詣道が整備されたことで庶民の間でも巡礼者が絶えませんでした。

熊野三山へと至る熊野参詣道には複数のルートがあり、紀伊路・中辺路・小辺路・大辺路・伊勢路の5つが代表的な道筋です。

この他にも吉野と熊野を結ぶ大峯奥駈道は1000m以上の険しい峰々を踏破する峰入修行の場として利用されてきました。

現在は大峯奥駈道を含め、中辺路・小辺路・大辺路・伊勢路の熊野古道が「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録されています。

田辺から熊野三山へと至る中辺路は最も多くの参詣者が利用した道で、一般的な意味での熊野古道はこの中辺路を意味します。

高野山と熊野本宮大社を結ぶ小辺路や、田辺から那智勝浦へと回る海辺の道の大辺路、伊勢神宮から熊野三山へと至る伊勢路も古くから熊野詣に利用されてきました。

2.初心者にも人気の散策コース

数多くのルートが存在する熊野古道の中でも、トレッキング初心者の人気を集めているのが大門坂から熊野那智大社や那智の滝へと至るコースです。

大門坂手前の駐車場から熊野那智大社までは1キロ余りで、石段を登るコースでも40分ほどで到着できます。

歴史を感じさせる石畳の大門坂は鬱蒼とした杉木立に囲まれており、歩き疲れても那智の滝前からバスで戻れる点でもシニアには安心の散策コースです。

発心門王子から熊野本宮大社に至る約7kmの道も人気のコースで、和泉式部が熊野本宮の森を伏し拝んだと伝えられる「伏拝王子」を途中で通ります。

この他にも牛馬童子像から継桜王子へと至る2時間余りのコースや、熊野速玉大社から高野坂降り口までの2時間コースも初心者向けです。

牛馬童子像から継桜王子までのコースは、出発点と到着点の近くにバス停があります。

熊野速玉大社近くにもバス停がある他、高野坂降り口はJR三輪崎駅まで徒歩7分ほどです。

3.慣れたら中上級者向けのコースにも挑戦

熊野古道の中でも紀伊路と中辺路には九十九王子と呼ばれる99カ所の神社があり、田辺から熊野本宮大社・熊野那智大社を経て熊野速玉大社へと至る中辺路は途中で31の王子社を通過する合計84kmほどのコースです。

その中には中上級者向けの長距離コースも多くありますので、熊野古道巡りに慣れてきたらそうした難易度の高いコースの踏破にも挑戦してみるといいでしょう。

熊野那智大社から熊野本宮大社へと抜けるコースは雲取越えと呼ばれ、特に前半の大雲取越えは標準歩行時間5時間を超える難ルートです。

山歩きに慣れたトレッキング上級者のシニアでないと大雲取越えの踏破は困難ですが、宿泊施設の小口自然の家から熊野本宮大社へと至る4時間半ほどの小雲取越えは大雲取越えほど負担は大きくありません。

中辺路や大辺路にはこの他にも10kmを越える中上級者向けコースが複数あります。

4.熊野三山の信仰と熊野詣の歴史

古くから自然崇拝の霊地として信仰を集めてきた熊野は、平安時代に入ってから上皇の熊野御幸が盛んに行われるようになりました。

平安時代前期の宇多上皇に始まり、9回に達した白河上皇や33回にも及ぶ後白河上皇が代表的な熊野御幸の例です。

紀伊路と中辺路で参詣者の守護を祈願するための九十九王子は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて熊野修験の手で整備されたとされています。

鎌倉時代以降は御師と先達・檀那からなる熊野詣の参詣組織が全国各地に発達し、上皇や貴族だけでなく武士や庶民に至るまで熊野詣が行われるようになりました。

九十九王子で休みながら大勢の参詣者が山中の道を進むその様子は、「蟻の熊野詣」と言われるほど活況を呈していたと伝えられています。

御師は参詣客のために宿坊を用意して祈祷や案内・賄いなどの世話をし、先達は道中の案内や儀礼の指導をしながら御師のもとへと檀那を導いたのです。

5.スタンプや温泉も人気

1000年以上にも及ぶ長い歴史を持つ熊野詣に利用されてきた古道には、巡礼に訪れた数知れぬ人々の祈りと信仰心が随所に残されています。

牛馬童子像や数々の王子社・大斎原・百間ぐら・野中の清水など、随所に見られる名所を訪ね歩くのも熊野古道を巡る楽しみの1つです。

大門坂などの苔むした石畳や石段の道も味わい深いですが、熊野の雄大な山並みが眺められる雲取越えや熊野灘を望みながら歩く高野坂は自然に親しむ絶好の機会を与えてくれます。

熊野古道には中辺路36カ所と高野七口19カ所・紀伊路22カ所・大辺路15カ所にスタンプ設置場所が用意されており、完全踏破すると和歌山県知事から証明書が発行されることから人気を集めています。

熊野古道付近には温泉も豊富に見られますが、中でも日本最古の湯と言われる湯の峰温泉は小栗判官と照手姫の伝説でも知られる温泉です。

熊野古道の散策に疲れたら、それらの温泉で体を休める楽しみも待っています。

熊野古道でトレッキングを楽しもう

熊野三山は3つの神社が信仰の中心地ですが、参詣道にも文化遺産としての歴史的な価値が世界に認められてきました。

近代化の過程で幹線道路に吸収された例も少なくありませんが、信仰の跡を追体験できる熊野古道は多く残されています。

日本人の精神文化を形作ってきた熊野信仰を再認識する上でも、熊野古道に一度は訪れたいものです。