那智の火祭り(和歌山県)伝統の神事を堪能し、世界遺産・熊野三山とその近辺の霊場を巡り歩く

最終更新日:2017年12月17日

和歌山県勝浦町にある熊野那智大社は、熊野三山の1つとして古くから熊野詣の参拝客で賑わってきました。

そんな熊野那智大社で毎年7月14日に行われる那智の火祭りは、日本三大火祭りにも数えられる伝統行事です。

1.世界遺産を舞台に繰り広げられる伝統行事

熊野那智大社を含む熊野三山は「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産として、2004年にユネスコの世界遺産に登録されています。

熊野三山は全国約3000に及ぶ熊野神社の総本社でもあり、古くから熊野権現信仰の中心地として重要な役割を果たしてきました。

江戸時代にはお伊勢参りと並んで熊野詣が庶民の間で人気を集め、熊野街道が人で埋め尽くされる様子は「蟻の熊野詣」と言われたほどの賑わいだったのです。

そんな熊野三山の1つ熊野那智大社で毎年7月14日に行われる例大祭は「那智の火祭り」の通称で知られていますが、正式名称は扇祭と言います。

鞍馬の火祭や長野県の道祖神祭りと並んで日本三大火祭りの1つにも挙げられる那智の火祭りだけに、最大の見どころは独特の扇神輿を大松明の火で清める場面です。

特設舞台で奉納される那智田楽も国の重要無形民俗文化財に指定された貴重な民俗芸能として見逃せません。

2.熊野那智大社と那智大滝との関係

熊野三山のうち熊野本宮大社は第10代崇神天皇の時代、熊野速玉大社は第12代景行天皇の時代に創建された旨が古文書に書かれています。

熊野那智大社はそれより古い第5代孝昭天皇の時代に天竺から渡来した裸形上人による創建とされています。

修験道の修行地としても信仰を集めてきた熊野那智大社の御神体は、一段の滝としては落差日本一を誇る那智大滝です。

第16代仁徳天皇の時代に那智大滝から現在の場所まで社殿を移したとも伝えられており、元の場所には別宮として本殿や拝殿のない飛瀧神社が存在します。

那智の火祭りは滝の神が年に一度だけ那智大滝に里帰りし、大松明の火で清められながら新たな神霊としての再生を行う神事です。

7月14日の早朝に礼殿の前で飾り立てられた12基の扇神輿には午後になって神霊が迎えられ、大滝に向かって渡御が行われます。

滝本祭の神事を経て扇神輿が熊野那智大社に還御するのが行事の大まかな次第ですが、ハイライトは何と言っても「御火行事」です。

3.扇神輿を清める勇壮な大松明

那智の火祭りで使われる扇神輿は一般的な神輿のイメージとは形状が大きく異なり、幅1m長さ6mにも達する細長い框に赤緞子を張った構造をしています。

那智大滝を表していると言われる12基の扇神輿が石段を進む光景も見ものですが、伏拝と呼ばれる場所ですべての扇神輿が直立させられる場面も見逃せません。

午後2時頃からは滝前の参道で大松明に点火されて御滝本神事が始まり、「松明火焔の清め」とも呼ばれる注目の場面が繰り広げられます。

扇神輿の数に合わせて12体あるこの大松明は重さ50kgから60kgにも達する巨大なもので、燃え盛る大松明の火の粉が扇神輿に浴びせられる迫力の光景は必見です。

松明火焔の清めが行われるのは473段にも及ぶ鎌倉積みの石段が続く旧参道で、昼なお暗い樹齢数百年の杉木立の下で繰り広げられる炎の乱舞はカメラ好きのシニアにとって格好の被写体となります。

4.国の重要無形文化財に指定された那智の田楽

7月14日に行われる熊野那智大社の例大祭は以上の御火行事がクライマックスですが、午前11時から特設舞台で奉納される大和舞や11時半から行われる那智の田楽も見ておきたい行事です。

特に那智の田楽は今から約600年前の室町時代に京都から招いた田楽法師の伝とされる芸能で、田楽の最も古い形が現在まで保存された貴重な姿だと言われています。

那智の田楽は昭和50年に第1回の重要無形文化財として指定された後、2012年にはユネスコの向け文化遺産にも登録されました。

今日まで継承されてきた伝統芸能に興味を持つシニアにとっては、600年の歴史を持つ那智の田楽を見ないで帰る手はありません。

扇神輿の渡御式前後に演じられる田植舞と田刈舞は農耕儀礼としての性格を色濃く残しており、農業神事としての側面も持つ那智の火祭りを民俗的観点から理解するのに欠かせない式次第の1つです。

5.早朝から場所取りが見られるほど人気

民俗学的見地から見ても極めて貴重な材料を提供する那智の火祭りをゆっくり見るためには、早め早めの行動が鍵になってきます。

特にクライマックスとなる松明火焔の清めを間近で見ようとする人が多く、良い場所が限られているため当日は早朝から場所取りをする光景も珍しくありません。

大松明に点火されて御火行事が行われるのは午後2時頃ですが、良い場所を確保するには早朝7時頃から待ち始める覚悟が必要です。

12基の扇神輿が直立する伏拝には立札が立てられており、それより下が場所取りの対象とされています。

滝下に場所を取るのが理想ですがスペースは限られているため、折り畳み椅子や食料なども持参して長時間待機した人だけが良い位置で炎の乱舞を見られるのです。

良い場所が確保されたら貴重な火祭りの神事を目の前で見ることができる上に、生命力再生の象徴とされる清めの火のお祓いにあずかることで健康長寿の御利益も得られます。

那智の火祭りとともに自然を満喫する旅を

那智の火祭りが行われる熊野那智大社の周辺には、熊野三山に通じる参詣道や高野山など「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録された霊場が広がっています。

那智の火祭りで伝統の神事を堪能したら、熊野三山とその近辺の霊場を巡り歩くことで、自然と信仰が一体となった風景を味わう充実した定年後の旅となります。