蘇民祭(岩手県黒石寺)は千年以上の歴史を持つ無形民俗文化財で日本三大奇祭の一つ!

最終更新日:2017年12月12日

全国の各地方には珍しい祭りや伝統行事が現在まで保存されている例が多く見られます。

岩手県内各地に伝わる蘇民祭もそうした例の1つで、中でも奥州市で行われる黒石寺蘇民祭は日本三大奇祭にも挙げられるほど有名です。
時間と心に余裕のできた定年後シニアなら一度は訪れてみたいものです。

1.千年以上の歴史を持つ無形民俗文化財

蘇民祭は全国各地で行われている裸祭りの一種で、新しい生命を得て復活することを示すため参加者が裸で禊や神事を行うのが大きな特徴です。

岩手県内では1月から3月にかけて花巻市や一関市でも蘇民祭が行われますが、奥州市水沢区で2月下旬に実施される黒石寺蘇民祭は全国的な知名度を誇ります。

黒石寺蘇民祭が一躍有名になったのは2008年のことで、インパクトの強いポスターが駅構内で掲示拒否された件が全国ニュースで取り上げられました。

下帯を身につけただけの若者が蘇民袋を奪い合う祭りの姿は奇祭の名に恥じず、全国的に見ても貴重な民俗行事の1つです。

黒石寺蘇民祭の起源は平安時代中期にまでさかのぼると言われており、1000年以上もの古い歴史を持ちます。

そうした点が評価され、黒石寺蘇民祭は選択無形民俗文化財にも指定されました。

2.蘇民祭が行われる奥州市の黒石寺

黒石寺蘇民祭が行われる奥州市は岩手県の内陸南部に位置し、平成の大合併で水沢市や江刺市など5市町村が合併して誕生した県内第2の都市です。

黒石寺は奥州市水沢区にあり、JR水沢駅からバスで30分ほど、東北新幹線水沢江刺駅からは車で15分ほどかかります。

車でアクセスする場合は東北自動車道の水沢ICまたは平泉前沢ICを出た後、20分から25分ほどで黒石寺に到着します。

黒石寺蘇民祭が行われる日にはJR水沢駅と東北本線水沢江刺駅から臨時バスも運行されますので、遠方から訪れる人はこの臨時バスを利用するのが便利です。

黒石寺は奈良時代の天平元年創建と伝えれるほど古い歴史を持つ天台宗の寺院で、平安時代初期に慈覚大師円仁が再興した際に東光山薬師寺から妙見山黒石寺へと名が改められました。

相次ぐ火災で伽藍は何度も焼失してきましたが、現在の本堂や庫裏は明治17年に再建された建造物です。

3.深夜から未明に行われる5つの行事

祭りは梵鐘を合図として午後10時の「夏参り」から始まり、瑠璃壺川で身を清めた参加者が薬師堂から妙見堂へと巡って厄災消除と五穀豊穣を祈願します。

11時半からの柴燈木登では柴燈護摩の神事が本堂前で行われ、井桁に組んで高さ3メートル以上に積み上げた長さ五尺の松の木に火が焚かれます。

裸になった参加者はこの柴燈木に登り、火の粉を浴びて身を清めなければならないのです。

蘇民袋を従えた住職が本堂に登る別当登りは午前2時からの行事で、午前4時には数え7歳の男児2人が大人に背負われ本堂に登る鬼子登りが行われます。

祭りのクライマックスは午前5時頃から始まる蘇民袋争奪戦で、裸の若者たちが蘇民袋を奪う合う光景が1時間あまりも繰り広げられます。

蘇民袋には将軍木で作った六角柱の小間木が詰め込まれていますが、蘇民将来の護符とされるこの小間木が袋から飛び散るため、境内の人々が先を争って小間木を拾う光景も黒石寺蘇民祭の名物です。

4.蘇民将来と須佐之男命にまつわる逸話

まさに奇祭中の奇祭と称しても過言でない行事が21世紀の現在まで保存されてきた黒石寺蘇民祭は、日本各地に伝わる蘇民将来の伝承と深い関わりを持っています。

蘇民将来とは「備後国風土記」にも記述が見られる説話の登場人物で、須佐之男命に宿を貸した善行によって子孫末代までの災厄消除を約束されたことで知られる貧者です。

その昔、裕福な弟の巨旦将来と貧しい兄の蘇民将来という2人の兄弟が備後国に住んでいました。

あるとき旅の途中で訪れた武塔神が一夜の宿を願い出たところ、巨旦将来は断りましたが蘇民将来は快諾し、貧しい中でも精一杯のもてなしをしました。

後日再訪した武塔神は蘇民将来と妻・娘以外の者を皆殺しにし、自分は須佐之男命だと明かした上で、蘇民将来の子孫の無病息災も約束したと伝えられています。

この逸話に基づいた蘇民信仰は全国各地に見られますが、蘇民将来の護符を奪い合う黒石寺蘇民祭は蘇民信仰が古い形で残された貴重な行事です。

5.見物するには防寒対策が必須

黒石寺蘇民祭は旧暦の1月7日深夜から8日未明にかけて行われる行事で、その年によって日程が異なります。

2017年は2月3日深夜10時から翌日早暁までの開催でしたが、2018年は2月22日から翌23日早暁までが開催スケジュールです。

全国で行われる祭りの中にはイベント化して土日に開催している例も少なくありませんが、伝統的な実施日にこだわる黒石寺蘇民祭は神聖な神事としての性格が強いのです。

2月の岩手県はまだ厳寒期と言える季節で、夜間は冷え込みも厳しくなります。

最低気温が氷点下まで下がる日も珍しくありませんので、黒石寺蘇民祭を見に行く際には万全の防寒対策が欠かせません。

ダウンコートやマフラー・手袋などの防寒具に加え、必要に応じて使い捨てカイロなども携行するといいでしょう。

深夜から未明にかけての行事で眠気に襲われることも考えられますが、蘇民袋争奪戦が始まれば若者たちの熱気で眠気も吹き飛びます。

日本三大奇祭のひとつ「黒石寺蘇民祭」

厳寒の2月に下帯だけを身につけた裸の男たちが繰り広げる熱い争奪戦は、祭り好きのシニアなら必見です。

黒石寺蘇民祭は日程が平日に当たる例も多く、貴重な民俗行事と知っていても見に行くのが難しい人は少なくありません。

時間に余裕がある定年後のシニアなら平日の深夜に行われる黒石寺蘇民祭もゆっくり見物できるものです。