定年後の旅!恐山(青森県)で人生で縁のあった死者たちと向き合う

最終更新日:2017年9月26日

青森県の下北半島にある恐山は、高野山や比叡山と並ぶ日本三大霊山の1つとして知られています。

恐山はイタコの口寄せが行われる場所としても有名ですが、死後の世界を象徴した地獄や極楽浜は死ぬまでに一度は見ておきたい風景です。

1.地形の特徴と開山の歴史

恐山は独立峰ではなくカルデラ湖を中心とした外輪山の総称で、この外輪山は最高峰の釜臥山を含む8つの山から構成されています。

太古に発生した火山の大爆発によって巨大な窪地が出現し、その底に水が溜まって宇曽利湖が形成されたと考えられます。

恐山は現在でも火山性ガスや水蒸気の噴出が至るところに見られる活火山で、地獄や極楽を象徴するような独特の風景もそうしたガスの影響です。

開山の歴史は古く、平安時代初期の貞観4年に慈覚大師円仁が夢のお告げを受けて霊山を求める苦難の旅の末、この恐山を発見して地蔵堂を建立したのが始まりとされています。

以来恐山は霊山として多くの人々に信仰を集め、夏と秋の大祭には県内からイタコがやって来て口寄せを行うことでも知られてきました。

交通アクセスとしてはJR大湊線の下北駅から路線バスが運行されている他、マイカーの場合はむつ市中心部から恐山街道を通って約25分で到着します。

2.死後の世界を象徴する風景

日本全国には死ぬまでに一度は行きたいと言われる景勝スポットが数多く存在しますが、その中でも恐山は最も異様な風景が見られることでも有名です。

136箇所もの地獄を巡る全長3kmほどの参拝コースの途中には、草木がほとんど生えず岩や石が剥き出しになった荒涼たる光景が広がっています。

それぞれの地獄には「無間地獄」「血の池地獄」「重罪地獄」などの名前が付けられており、あらゆる罪がその中に象徴されています。

生きながら地獄巡りをすることでこれまでの人生に思いを馳せ、古くから信じられてきた死後の世界を想像するのも恐山ならではの味わい方です。

賽の河原には石の積み上げられている光景も見られますが、これは幼くして亡くなった子供を成仏させるために親が積んだものと言われています。

恐山特有の荒涼とした風景は大地から噴出している亜硫酸ガスの影響ですので、着火の危険性から全山禁煙で、線香やロウソクの使用も所定の場所に限定されています。

3.極楽浜の絶景

恐山の魅力は、この世のものとは思えない地獄の風景ばかりではありません。
外輪山の中央に位置する宇曽利湖の水は透明度が非常に高く、まるで南国の海を見るようなエメラルドグリーンの水をたたえています。

これも火山性ガスが溶け込んだ酸性の水で、ウグイを除く生物がほとんど生息できない環境ゆえに水が澄んでいるのです。
地獄の風景の先に奇跡のような美しい湖が現れることから、エメラルドグリーンの湖水と白い砂浜の広がるこの風景を称して極楽浜と呼ばれています。

地獄だけでなく極楽も混在している風景に救いを感じる人は多く、全体として死後の世界が強く印象づけられる点も恐山の持つ魅力の1つです。
死後の世界をイメージさせる演出は恐山の至るところに見られ、駐車場手前の三途川にかかる太鼓橋や、奪衣婆と懸衣翁の像なども見所として挙げられます。

境内には地蔵菩薩像も多く、随所に供えられた色鮮やかな風車とともに恐山らしい風景を特徴づけています。

4.夏秋の大祭とイタコの口寄せ

冬期間に閉鎖される恐山は毎年5月1日から10月31日までが開山期間で、開山時間は午前6時から午後6時までとなっています。
1年の中でも特に多くの人が恐山を訪れるのは、夏と秋に行われる大祭の期間中です。

7月20日から24日までの期間に開催される夏の大祭では、僧侶や信者などが列に連なる山主上山式が一番の見所です。
秋の大祭は体育の日を最終日とする10月の3連休期間中に開催されます。

夏と秋の大祭はイタコの口寄せが行われる点でも人気を集めてきました。
イタコは東北地方に広く見られた霊能力を持つ巫女ですが、青森県のイタコは特に有名で、大祭期間中に恐山にやって来て口寄せと呼ばれる降霊術を行います。

現在では県内のイタコも高齢化が進んで数が減っており、口寄せには朝早くから行列が並び、何時間も待ってようやく順番が回ってくる例も少なくありません。
それでも口寄せを通じて亡くなった人の霊と交流したいと願う人は多く、同じ願いを持つ同士で待ち時間中に親交を温めている光景も珍しくないものです。

5.点在する温泉と宿坊

火山帯の付近には温泉の存在する例が多く見られますが、恐山の場合もその例外ではありません。
恐山には「古滝の湯」「冷抜の湯」「薬師の湯」「花染の湯」という源泉かけ流しの温泉が4箇所に点在しており、それぞれに効能が異なります。

このうち吹き出物や切り傷に効く花染の湯だけが混浴で、薬師の湯は月によって男女別が入れ替わるのが特徴です。
男性専用の古滝の湯は胃腸炎などに効能があり、女性専用の冷抜の湯は神経痛やリウマチに効きます。

いずれの湯も酸性の硫黄泉で皮膚への影響が強いため、入浴時間は3分から10分程度にとどめるよう注意書きが張られています。
恐山への入山料さえ払えば無料で入れるこの4つの温泉以外に、宿泊施設の恐山宿坊にも内風呂と露天風呂の温泉があります。

宿坊では食事の時間や消灯時刻を守り、読経や焼香などを行う朝のお勤めに参加することも必要です。
お勤めの際には、地蔵堂に安置されているご本尊や慈覚大師円仁の像を拝むことができます。

恐山での祭りや温泉もいっしょに楽しもう

恐山はその名前や地獄のイメージから恐ろしげな場所のように思われがちですが、極楽浜のような絶景が味わえる観光スポットでもあります。
家族や親しい人を亡くした人ほど、死者が身近に感じられる恐山の風景は心にしみじみと染み入るものです。

そんな意味でも恐山は、長い人生のうちに一度は訪れておきたい場所の1つです。