『夜のピクニック 』恩田 陸(著)読むと定年後シニアもウォーキングを始めたくなります!

最終更新日:2017年11月11日

恩田陸は2017年に「蜜蜂と遠雷」で直木賞と本屋大賞をダブル受賞したことで話題となりました。

これが2回目の本屋大賞受賞となった恩田陸の代表作の1つとして、初めて本屋大賞を受賞した「夜のピクニック」が挙げられます。

1.映画化もされた本屋大賞受賞作

受賞作がベストセラーとなることでも知られる本屋大賞も2017年で14回の歴史を数えますが、同じ作家が複数回受賞した例は恩田陸が初めてです。

恩田陸が2004年に出版した「夜のピクニック」は翌2005年の第2回本屋大賞に選ばれたばかりでなく、吉川英治文学新人賞を受賞したことでもわかるように文学性も高く評価された作品です。

「夜のピクニック」は2006年に長澤雅彦監督で映画化もされていますが、「ピクニックの準備」と題するショートストーリー10編を収録したスピンオフ映像も人気を集めました。

「夜のピクニック」という一見不思議なタイトルがつけられたこの作品は、「歩行祭」と呼ばれる学校行事に取り組む高校生たちの姿を描いた青春小説です。

映像版の「夜のピクニック」を観たという人も、原作の小説を読めば登場人物たちの細やかな心理描写が文章で味わえます。

2.24時間かけて80kmを歩く歩行祭

「夜のピクニック」の舞台となるのは、田園風景が広がる人口20万人の地方都市です。

大半の登場人物は「歩行祭」に参加する同じクラスの高校生たちで、男子生徒の西脇融と女子生徒の甲田貴子がストーリーの中心となります。

この2人はある特別な関係にありながら、それまで一度も直接口をきいたことがありませんでした。

貴子は高校生活最後となるこの歩行祭で融に声をかけようと決心しますが、なかなか実行に移すことができないままストーリーが進んでいきます。

朝8時に出発して翌日の朝8時までに決められたコースを歩き通すというこの歩行祭は、作者自身が通っていた茨城県水戸市の高校の名物行事がモデルです。

24時間かけて80kmのコースを歩き通すためには、途中で2時間の仮眠を挟んで夜も暗闇の中を歩き続けなければなりません。

「夜のピクニック」は全編ただひたすら高校生たちが歩きながら会話を繰り広げる場面から成り立つ小説とも言えます。

3.リアルな高校生たちの会話

学校行事を題材とする青春小説も数多く書かれてきましたが、ドラマチックな展開を演出しやすい文化祭や部活動などと違って、ただ歩くだけの歩行祭では単調な展開に陥りかねません。

しかしながら作者の恩田陸は1人1人異なる思惑を抱えた登場人物たちを巧みに描き分け、高校生たちのリアルな会話に乗せて彼らの心理を繊細に描写することに成功しています。

ある特別な関係にあるためにお互いを意識し合う融と貴子の間柄をクラスメイトたちが誤解したり、2人にそれぞれ想いを寄せる生徒たちの思惑が衝突し合ったりしながら歩行祭は進んでいきます。

果たして貴子は高校生活最後の歩行祭に賭けた目標を実行に移せるのかどうか、融の反応はどうか、といった興味も読者がストーリーに惹きつけられる要素の1つです。

気がつけば「ただ歩くだけ」という単調なはずの学校行事が退屈でなくなり、高校生たちの息遣いさえ感じられるほど読み手は作品世界の中に没入しています。

4.ミステリーから音楽小説まで多彩な作風

思春期の真っただ中にある少年少女の世界を描く腕前は、作者の恩田陸にとって原点と言えるデビュー作の「六番目の小夜子」でも発揮されていました。

原作の舞台を高校から中学校に変えてドラマ化もされたこの作品は、第3回ファンタジーノベル大賞で最終候補に残ったホラータッチの学園小説です。

以後も作者は「光の帝国」のようなファンタジー小説や「木曜組曲」「ユージニア」などミステリー作品を多く執筆しています。

日本推理作家協会賞を受賞した2005年発表の「ユージニア」は直木賞候補にも選ばれ、恩田陸は人気と実力を兼ね備えた作家としてファン層を着実に拡大してきました。

多彩な作風も恩田陸の持ち味で、直木賞受賞作となった「蜜蜂と遠雷」は国際ピアノコンクールを題材に取り上げた本格的な音楽小説です。

クラシック音楽好きの父を持つ作者は幼い頃から音楽に親しみながら育ち、大学時代にもビッグバンドに所属して楽器演奏を楽しんでいました。

5.大人が青春小説を読む意義

多彩な才能を持つ恩田陸が高校の「歩行祭」に着目して学園小説に仕立て上げた「夜のピクニック」は、出版から10年以上を経た現在も文庫本や電子書籍で読み継がれています。

その読者層は現役の中高生など若い世代ばかりに限らず、彼らの親世代より上の年齢層にも広がりを見せてきました。

この作品を読みながら自分自身の学生時代を思い出したという人も多く、誰にでも経験がある青春の日々を懐かしみながら共感できる点が「夜のピクニック」の魅力です。

学生時代の思い出は1人1人異なるため、100人が「夜のピクニック」を読めば100通りの読み方ができます。

ノスタルジーの漂う田園風景の描写が多感な高校生たちの会話に溶け込んだ「夜のピクニック」は、10代の読者だけでなく大人が読んでも楽しめる青春小説です。

ウォーキングを始めたくなる小説「夜のピクニック」

シニア層の中にも健康のために毎日ウォーキングを欠かさずにいる人は少なくありません。

日頃から運動不足を痛感している人でも、「夜のピクニック」を読めば気のあった仲間とともにウォーキングを始めたくなります。

実際にウォーキングで歩く楽しさを知っている人は、作中の会話と歩くテンポが一致する事実に気がつくものです。