定年後に必読!『百年の孤独 』ガブリエル ガルシア=マルケス (著)で現実と幻想の融合した世界にたゆたう

最終更新日:2017年9月25日

20世紀には全世界で無数に近い小説が書かれましたが、中でも最高傑作としてよく挙げられるのは「百年の孤独」です。

ガルシア=マルケスによって書かれたこの作品は、現在に至るまで世界の文学に大きな影響を及ぼしてきました。

1.世界的ベストセラーを記録

20世紀文学の世界潮流は意識の流れによる手法が前半のうちに生み出されて以降、技法的には出尽くして一種の手詰まり感が漂っていたという見方があります。

そうした停滞状況を打ち破り、世界文学に大きな衝撃を与えたのが1967年発表の長編小説「百年の孤独」でした。

ガルシア=マルケスは南米コロンビアの出身で、それまで世界文学の主流だった欧米とは異なる文学土壌を持っています。

現実と幻想がシームレスに融合する文学スタイルは「マジックリアリズム」と呼ばれますが、「百年の孤独」はそうした作風を代表する作品です。

「百年の孤独」は特にスペイン語圏を中心に熱狂的に受け入れられ、「ソーセージ並みに売れた」と言われるほどの世界的ベストセラーを記録しました。

「百年の孤独」の累計売上部数は全世界で3000万部を超えるとされており、難解なイメージのある小説にも関わらず大衆的な人気を呼んできたのです。

2.要約困難な豊穣世界

「百年の孤独」は日本の作家や文化人にも大きな影響を及ぼしてきました。

ガルシア=マルケスと「百年の孤独」の影響を受けた作家には、大江健三郎や安部公房・中上健次・寺山修司など錚々たる顔ぶれが並びます。

それほど重要な作品にも関わらず、「百年の孤独」のあらすじをわかりやすい形で要約するのは非常に困難な作業です。

物語の舞台はマコンドと名付けられた架空の町で、作者ガルシア=マルケスが生まれたコロンビア北部の町がモデルとされています。

このマコンドを創設した夫婦と第七世代に至るまでの子孫たちが主要な人物として登場し、約100年間の歴史が作中で語られます。

日本語訳では500ページ近い長編小説の中で無数のエピソードが展開されますが、リアリズムと幻想が複雑に入り組むそれらの挿話群は要約困難なほど豊穣な文学的空間の連続です。

最終的にマコンドの町は、創始者の子孫による禁忌の近親的結婚をきっかけとして滅亡に向かいます。

3.現実と幻想との奇跡的な融合

マジックリアリズムの最高峰とも称えられる「百年の孤独」の魅力は、現実と幻想が地続きとなった数々のエピソードにあります。

全体は20の章に分かれていますが、各章ごとに複数のエピソードを積み重ねることで全体が構築されている点がこの作品の特徴です。

マコンドに住む創始者一族は豚の尾が生えた奇形児が生まれるという理由で近親婚が許されない伝統を持ち、実際にそうした奇形児が生まれたことで一族が滅亡に向かいます。

伝染性の不眠症やチョコレートを使った空中遊泳術、象おんなとの食い争い、4年11ヵ月も降り続く雨など、現実離れした奇妙な話が随所にちりばめられている点が「百年の孤独」の面白さです。

そうした空想的な挿話が南米の歴史という壮大な現実の中に埋め込まれているため、物語に没頭するうちには非現実的な出来事も現実のような感じられる瞬間が訪れます。

それらが極めてリアリティ豊かに語られているため、読み手は現実と幻想の区別がつかなくなった不思議な世界へと誘われていくのです。

4.マジックリアリズムの旗手

20世紀の南米文学を特徴づけているとも言われるマジックリアリズムの伝統は、アルゼンチン出身の作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスに始まります。

「伝奇集」で知られるボルヘスは短編小説しか残していませんが、この手法をガルシア=マルケスは「百年の孤独」で長編小説として結実させました。

作者のガルシア=マルケスはジャーナリストとして本格的な文筆活動をスタートさせ、キューバ革命にも関わった時期があります。

小説以外にもノンフィクション作品を多く書いたり、映画の制作に関わったりなど、多彩な活動で知られた作家です。

1982年には「百年の孤独」を始めとする彼の功績が認められ、ノーベル文学賞を受賞しました。

ガルシア=マルケスはマジックリアリズムの旗手として同時代から後世の作家に至るまで世界的な影響を与えてきましたが、「族長の秋」や「コレラ時代の愛」などはまた異なる作風を持った作品です。

5.知識人のバイブル

「百年の孤独」の衝撃があまりにも大きかったため、日本では1970年代頃を中心として知識人のバイブルのように扱われてきました。

知識人なら「百年の孤独」を一度は読むべきだという風潮さえ当時は見られましたが、その価値は現在も決して色褪せてはいません。

筋立ての整った小説に慣れた人にとって、「百年の孤独」は必ずしも読みやすい作品とは言えません。

南米特有の土着的な生活風景や複雑な人間関係が背景となっているだけに、文学志向によっては読む進めるのが辛いと感じる人もいます。

そこを無事に乗り切って作品世界への没入に成功したら、以後は圧倒的な読書体験が待ち構えています。

「百年の孤独」や南米文学がブームとなっていた当時は敬遠していた人でも、仕事の第一線から退いて時間に余裕が出てきた後なら再挑戦も可能です。

非現実的な設定に抵抗を抱く読書愛好家も少なくありませんが、この作品にはそうした既成観念を打ち砕くようなパワーがあります。

インテリなら一度は読むべき?「百年の孤独」

魔術的なリアリズムの手法で世界に衝撃を与えたガルシア=マルケスは、2014年に惜しまれつつ世を去りました。

彼の残した「百年の孤独」が人類の遺産として長く世界文学史に名をとどめるのは間違いありません。

この作品を読んだことのあるという人でも、改めて読み返せば「百年の孤独」が巻き起こした影響力の大きさを再確認できます。