東大寺お水取り(奈良県)で無病息災の御利益と仏教文化に触れる

最終更新日:2017年11月27日

古い歴史を持つ寺院は拝観するだけでも御利益が期待できますが、さまざまな年中行事も見逃せません。

中でもお水取りで有名な奈良県東大寺の修二会は、1200年以上もの長きにわたって受け継がれてきた伝統行事です。

1.奈良時代から1200年以上も絶やさず実施

奈良市にある東大寺は奈良の大仏でも知られているため、修学旅行生も含めて1年中大勢の観光客が訪れます。

準備期間も含めると2月20日から3月15日までの1カ月近くを費やす修二会は、東大寺で行われる多彩な年中行事の中でも最も重要な行事です。

このうち2月20日から末日までは戒壇院を舞台に行われる別火という前行で、3月1日からの本行に入る前に練行衆と呼ばれる11人の僧侶が精進潔斎の生活を送ります。

世間の火とは別の特別な火を使って生活をすることで身が清められ、本行に入ることができるようになります。

3月1日からの本行では二月堂に場所を移して練行衆が悔過法要を中心とするさまざまな勤行を行います。

悔過法要とは本尊の十一面観音菩薩にこれまでの罪障を懺悔し、国家安泰や五穀豊穣を祈願する行です。

奈良時代に創建された東大寺は長い歴史の中で二度も伽藍を失いましたが、修二会だけは一度も絶やさず不退の行法として1200年以上も続けられてきました。

2.期間中毎日見られるお松明

東大寺の修二会は二月堂での本行が行われる3月1日から14日まで毎日見られるお松明と、3月12日(13日未明)に行われるお水取りが特に知られています。

このうちお松明は本行を行う練行衆が二月堂に上堂する際の道明かりとするため、堂の欄干で童子が巨大な松明を振り回す行事です。

3月1日から11日までの11日間と13日は午後7時からの約20分間、10本のお松明が次々と上げられます。

お水取りの行われる3月12日のお松明は午後7時半からの約45分間に及び、他の日よりも大きい籠松明が合計11本も振り回される光景が見ものです。

最終日の3月14日は午後6時半からの約10分間にお松明が次々と上げられるため、12日とともに混雑が予想されます。

お松明の火を浴びると1年間無病息災で過ごせると言われており、燃えカスですら護符として持ち帰る人が少なくありません。

3.お水取りは静かなクライマックス

3月15日の満行まで連日神聖な行事が繰り広げられる東大寺の修二会でも、大勢の見物客が詰めかける最大のクライマックスは何と言っても3月12日のお水取りです。

正確には日付が変わった13日未明の1時、松明に先導されたお水取りの行列が二月堂を出発し、閼伽井屋に向けて雅楽の演奏の中で厳かに進んでいきます。

この閼伽井屋は若狭井の別称でも呼ばれる建物で、中にあるお水取りの井戸は役目の者以外誰も見ることができません。

二月堂と閼伽井屋の間を三往復し、お香水と呼ばれる神聖な水が内陣に納められるのです。

その年の新しいお香水を入れる「次第香水」は二月堂の湯屋の井戸水で割って小瓶に入れられ、18日以降に一般の参拝客向けに配布されています。

お水取りは修二会の勤行を中断して行われる神聖な行事のため、一般の賑やかな祭りと違って静かなクライマックスを迎えるのが特徴です。

4.修二会とお水取りの起源

東大寺の修二会はもともと旧暦の2月1日から15日までの期間に行われていた行事です。

東大寺を開山した奈良時代の僧・良弁の弟子に実忠という僧があり、この人が笠置山での修行中兜率天で天人たちによる十一面悔過法の行を見たのが修二会の起源と言われます。

修二会で行われる行の中に「走りの行法」と呼ばれて裸足で走る五体投地がありますが、これは実忠が下界でも十一面悔過法を行いたいと天人たちに願い出たことが由来です。

兜率天の1日は人間界の400日に相当すると言われたため、これに追い着くために走りの行法を思いついたのです。

実忠は13700余りの神々の名を神名帳に記すという行法を行って神々の守護を祈りましたが、その中で若狭の遠敷明神だけが魚釣りをしていて遅参しました。

遠敷明神はお詫びとして道場のほとりにある岩を割ってお香水を出し、これが若狭井と名づけられてお水取りの起源となったのです。

5.入場規制も行われるほど混雑

奈良時代から1200年以上も絶やさず続けられてきた修二会とお水取りの行事だけに、特に3月12日の東大寺境内には2万人から3万人もの参拝客が訪れて大変な混雑となります。

お水取りが行われる二月堂の周辺は数千人しか収容できないため入場規制も実施され、早くから場所取りをしていないと貴重な行事を見ることができません。

できるだけ多くの人がお水取りの行事を見られるように、順番に入場するように警察官が誘導する例もしばしばです。

早くから場所取りをしていても移動するようにと言われる場合はありますが、お水取りを確実に見るためには場所取りが欠かせません。

3月の深夜はまだ冷えますので、防寒具や使い捨てカイロなどで寒さ対策は万全にした上で行事を待つといいでしょう。

3月12日はお水取りの前に行われる籠松明も人気を集めていますが、他の日の方がお松明もゆっくりと見学できます。

東大寺のお水取りで無病息災の御利益と仏教文化に触れる

神聖な宗教行事でありながら一般の参拝客にも公開されている東大寺のお水取りは、日本の伝統的な仏教文化を深く理解する絶好の機会を与えてくれる行事です。

その火を浴びると無病息災の御利益が得られるという勇壮なお松明も含め、毎年3月1日から14日までの2週間は大仏で有名な東大寺が最も多くの参拝客で賑わいます。