おわら風の盆(富山県八尾町)で300年以上の歴史を持つ伝統行事を見ながら坂が多い町を歩く

最終更新日:2017年12月25日

越中おわら節の哀愁漂う旋律に合わせて優美な踊りが繰り広げられる「おわら風の盆」は、300年以上の歴史を持つ伝統行事です。

おわら風の盆が行われる富山市八尾町は、昔ながらの町並みが残る町としても知られます。

1.町流しと輪踊り・舞台踊り

おわら風の盆の舞台となるのは、富山市八尾町の中でも旧町内を中心とする11の町内です。

9月1日から3日までの3日間を本祭とするおわら風の盆には、町踊り・輪踊り・舞台踊りという3種類があります。

いずれも地方(じかた)と呼ばれる三味線・胡弓・太鼓と囃子・唄い手の演奏に乗って踊り手が踊る形に変わりはありませんが、町踊りは各町の地方と踊り手が踊りながらそれぞれの町内を練り歩くのが特徴です。

輪踊りは地方の周りを踊り手が輪になって踊る方式で、舞台踊りでは八尾小学校グラウンドや各町に設置された特設ステージの演舞場で踊りが披露されます。

八尾小学校グラウンドで開かれる「おわら演舞場」は有料ですが、他の会場は無料で観覧できるため混雑も必至です。

初日と2日目は午後3時から各町内で町流しと輪踊りが始まり、夜が更けるまで踊りが繰り広げられます。

最終日の町流し・輪踊りは夜7時からの開始で、翌朝の明け方まで踊り明かすのが習わしです。

2.越中おわら節の沿革と風の盆

全国には踊りをテーマとする祭りが数多くありますが、踊りには伴奏となる音楽も付きものです。

徳島の阿波踊りや高知のよさこい祭りでは、陽気なメロディと躍動感のあるリズムが特徴の音楽が使われています。

これに対しておわら風の盆で使われる越中おわら節はどこか哀調を帯びた旋律が特徴で、その情感を盛り立てるのが胡弓の響きです。

越中おわら節には古くから伝わるおわら古謡に加え、野口雨情ら八尾を訪れた文人の手による新作おわらの2種類があります。

現在主流となっている越中おわら節の節回しは、名手と言われた民謡歌手の江尻豊治が基礎を築いたものです。

越中おわら節では日本の民謡としては珍しく胡弓が伴奏に使われていますが、これは明治40年代に八尾を訪れた輪島塗旅職人の松本勘玄が導入したと伝えられています。

松本勘玄は八尾で胡弓を奏する越後瞽女と出会い、苦心の末におわら節と胡弓を合わせた伴奏のスタイルを確立させたのです。

3.豊年踊りと男踊り・女踊り

独特の哀調を帯びた伴奏に合わせて唄われる越中おわら節は音楽としても価値が高い曲ですが、これに踊りが加わることでよりいっそう曲の情感が深まります。

古くは阿波踊りのような踊り方だったと推察されるおわら風の盆の踊りも、越中おわら節を使うようになってから格調高い踊りへと生まれ変わったのです。

おわら風の盆の踊りには豊年踊りと新踊りがあり、昭和初期に日本舞踊家の若柳吉三郎が振り付けを行った新踊りは男踊りと女踊りの2種類に分けられます。

四季の踊りとも呼ばれる女踊りはもともと舞台用に振り付けられただけに艶っぽく踊るのが特徴で、豊年踊りとともに農作業の所作を表現した男踊りは勇猛さが特徴です。

踊り手は男女とも編笠を深くかぶって顔を隠し、男性は黒の法被に黒足袋姿、女性は浴衣に白足袋姿で踊ります。

4.八尾の町衆と踊りの起源

おわら風の盆が行われる八尾町は平成の大合併で富山市の一地区となりましたが、岐阜県との県境にあって古くから街道の要所として栄えてきました。

売薬や和紙・養蚕といった伝統産業に支えられた八尾の町では江戸時代前期になると町衆たちが力をつけ、おわら風の盆も彼らが中心となって始められたと考えられています。

「富山藩の御納戸」と言われるほどの経済力を蓄えた八尾の町で、元禄期には町衆と米屋庄兵衛家との間で争議が起こりました。

富山藩から建物を建てるための許可証として「町建御墨付」という文書を町衆が取り戻し、そのときの祝いの踊りがおわら風の盆の始まりとも伝えられています。

開催される時期が時期だけにおわら風の盆は二百十日と関連があるという説もあって、農作物に大きな被害をもたらす台風を鎮める祈りが「風の盆」の名に込められているとも考えられます。

5.昔ながらの風情を残す坂の町

坂の多い町としても知られる八尾の町は、千本格子の町家が通りに並ぶ昔ながらの町並みも魅力です。

富山市と合併する前は人口2万人だった八尾は町そのものが決して大きくありませんが、おわら風の盆が行われる3日間には25万人もの観光客が訪れて大混雑となります。

踊りが行われる町内では移動するのも困難になり、交通規制が実施されるだけでなく入場制限が行われる町内も少なくありません。

情緒豊かな踊りを確実に見るためには、踊りの行われる町内を把握して早めの会場入りが不可欠です。

定年後の旅で八尾を訪れるなら、前夜祭でゆっくり踊りを見物するという手もあります。

本祭に先立つ8月20日から30日まで11の町内が持ち回りで夜8時から10時まで町流しと輪踊り・舞台踊りを繰り広げる前夜祭は、混雑を避けておわら風の盆を見られる貴重な機会です。

前夜祭の期間中は本祭ほど人が多くありませんので、昔ながらの風情を残す八尾の町をぶらぶら歩きながら町並みを味わうこともできます。

300年以上の歴史を持つ「おわら風の盆」

石垣の上に建てられた家々や格子戸の町家と石畳の道が魅力的な八尾の町で繰り広げられるおわら風の盆は、多くの観光客を魅了してきました。

最近では混雑を避けて踊りが見られる前夜祭の人気が高まっています。

坂が多い八尾の町を歩くのはシニアにとってかなりの運動ですが、そうやって町を見て歩くだけでも旅情に浸れるものです。