定年後に読もう!『罪と罰 』ドストエフスキー(著)で人間存在の根本に迫る!

最終更新日:2017年9月25日

ドストエフスキーの「罪と罰」と言えば19世紀を代表する小説というだけでなく、世界の文学史上でも最高傑作と言われる作品です。

一見とっつきにくいこの大作小説も、ポイントを押さえれば少しでも読みやすくなるものです。

1.人間存在の根本に迫る大作

ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーが1966年に発表した「罪と罰」は、日本の大手出版社が競い合うように刊行した世界文学全集に欠かせないと言われるほど名作中の名作小説です。

シェークスピアの「ハムレット」やゲーテの「ファウスト」、といった過去の名作と肩を並べる古典的な文学作品としても、「罪と罰」は世界中の読書家から長く愛好されてきました。

「罪と罰」はあまりにも有名な小説のため、文学に関心を持つ人なら大まかなあらすじを知っているものです。

作品そのものは非常に長大で読むのに時間がかかることから、今になって改めて読む必要はないようにも考えられがちです。

しかしながら古典的な名作には時代を越えて読まれるだけの価値があり、この作品も今の時代に生きる人の魂に呼びかけるだけの力を持っています。

特に仕事の第一線を退いて時間に余裕ができたシニア層の人なら、この長い物語にもじっくりと付き合うことができるものです。

2.倒叙型推理小説と似たストーリー

「罪と罰」は第一部から第六部までに大きく分けられ、最後に後日談として終編が加えられています。

主人公のラスコーリニコフは貧しさゆえに大学を除籍となってしまった青年です。

ナポレオン的な非凡人は人類の幸福を実現させるため社会の規範に縛られる必要がないという妄想的な思想にもとづき、主人公は第一部で貪欲な金貸しの老婆をその妹とともに殺害します。

ラスコーリニコフは自分の犯した罪の意識に苦しめられますが、家族を救うため売春婦となったソーニャという女性と知り合って彼女の愛と信仰に触れ、第六部で自首を決意するに至るのです。

根幹となるこの本筋に主人公の妹ドーニャの結婚問題を始め、ソーニャの父親マルメラードフとの交流と彼の死、予審判事ポルフィーリーと主人公との三度にわたる対決などが描かれます。

主人公の犯罪は途中で彼自身がソーニャに告白するまで周囲の人物には疑われもしません。

犯行を隠し続けながら生活を送る主人公に感情移入することで、倒叙型の推理小説を読むような気分も味わえます。

3.作品の背景と登場人物

「罪と罰」が重要な作品だということは理解していても、作品が長大で難しそうなイメージもあることから読むのを敬遠してきた人と言うは少なくないものです。

何しろ「罪と罰」の日本語訳は文庫本だと2分冊や3分冊は当たり前で、合計1000ページ近い分量を持っています。

その上ロシア文学特有の特徴として登場人物の名前が長く、同じ人物を異なる名前で呼んでいる例も少なくありません。

例えば作中で主人公の恋人となる女性の正式名はソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワですが、これでは長過ぎるので「ソーニャ」や「ソーネチカ」などの愛称が使われています。

こうした点にさえ慣れれば生活習慣や時代背景が異なる19世紀ロシアの物語も、ぐっと親しみやすくなります。

4.作者の最も窮乏していた時期に執筆

作者のドストエフスキーは59年の生涯で数多くの名作長編小説を残した19世紀を代表する文豪です。

「白痴」「悪霊」「未成年」「カラマーゾフの兄弟」は「罪と罰」とともに5大長編と呼ばれており、いずれも文庫本では上下巻などの形で分冊にされるほどの大作揃いです。

「罪と罰」はそれらの作品中でもドストエフスキーが最も生活状態の窮乏していた時期に書かれました。

兄の死とともに兄弟で創刊した雑誌も休刊に追い込まれて莫大な借金を抱え込んだ上、ドストエフスキーは兄の家族の面倒まで見る羽目に陥っていたのです。

類まれな才能とエネルギーを持つこの文豪が経済的必要にも追い込まれ、小説家としての総力を注いで書き上げた結果が世界文学史上に残る名作の誕生につながりました。

思想家でもあったドストエフスキーは作中でキリスト教や社会思想・哲学に関する考察を物語に織り込みながら重厚に展開しており、その点も見逃せない読みどころの1つです。

5.今の時代に読む意味

ドストエフスキー以降も世界では数々の文学的実験が試みられ、特に20世紀の文学には現代にも通用する傑作が少なくありません。

今から150年以上も昔に書かれた「罪と罰」は過去の文学遺産として、単なる教養の対象とされがちです。

何もこれだけ長々とした小説を全編通して読む必要はなく、有名なあらすじとテーマさえ知っていれば十分に役立つと考えている人も少なくはありません。

しかしながら「罪と罰」で克明に追求された罪の意識と贖罪というテーマは過去の遺物ではなく、今の時代にも重要な意味を持っています。

ラスコーリニコフが犯罪を犯した動機の1つとして貧困の問題も無視できませんが、作品の背景となった社会の矛盾は時代とともに拡大する一方です。

同じ問題を抱えながら生きる現代人にとって、「罪と罰」には共感できる要素が数多く含まれているのです。

まとまった時間のあるシニア向き!集中力で「罪と罰」を読んでみよう

今の時代にも価値を失っていない「罪と罰」は、重厚な読書体験が得られる作品としても一級品です。

現代の日本人がこの大作を読み通すにはある程度の努力も必要ですが、読み終えたときには大きな感動が待っています。

本編を通して作品世界に浸った人だけが、あらすじを知ることでは得られない達成感を味わえるのです。