定年後に読もう!『精霊の守り人 』上橋 菜穂子(著)で不思議な世界観と現代社会の普遍的なテーマに分け入る

最終更新日:2017年9月27日

NHKでドラマ化されたことで注目度が上がった、上橋菜穂子の「精霊の守り人」。

児童小説といった枠組みに関わらず、子どもからお年寄りまで幅広い世代から支持を受ける作品ですが、なぜこれほど人気があるのでしょうか。

その秘密に迫ります。

1.作品のあらすじ

舞台はこの世(サグ)とそれに重なって存在する異世界ナユグがあると信じられている世界です。

主人公である女用心棒のバルサは、ある日川に流された新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを救います。

彼はその身にナユグの水の精霊ニュンガ・ロ・イムの卵を宿していました。

新ヨゴの建国神話は、初代皇帝トルガルが水妖を倒したことで誕生したとされているため、皇子の父である帝は、国の威信のため、彼を密かに暗殺しようとしていました。

それに気が付いたチャグムの母・二ノ妃はバルサに彼を連れて逃げるよう頼みます。

チャグムと宮を脱出したバルサは帝の追手から逃れながら、幼馴染のタンダや呪術師トロガイと共に、彼に宿った精霊の卵の謎を追います。

同時にチャグムの教育係であった星読博士のシュガも、皇子を助けるため、過去の文献を調べ始めます。

長い月日の中でチャグムは宮の外の世界を知り、バルサもまた自身の血塗られた過去と向き合い始めます。

精霊の卵の謎を知った時、国の闇と新たな敵が判明します。

果たしてバルサはチャグムを守れるのでしょうか。

2.作品の見どころ 緻密に練られた世界観

ファンタジーの面白さを決定づける、作品の世界観。

作者である上橋菜穂子は、オーストラリアの先住民族アボリジニの研究をしている、文化人類学者です。

その研究の影響もあり、サグとナユグという人間と精霊が相互に関わる世界観や、新ヨゴ皇国やカンバル王国といったユニークな文化・思想を持つ人々を創り出しました。

その世界観は、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ハリー・ポッター」シリーズといった海外ファンタジーに負けず劣らず、読者を惹きつけます。

3.作品の見どころ 児童小説の主人公は中年の女性

「精霊の守り人」は児童小説であるにもかかわらず、主人公は中年の女性、しかも短槍使いという、一見児童小説の主人公らしくない人物です。

しかしながら深い人物描写で非常に魅力的なキャラクターになっており、その点は特に大人に支持される重要な要素となっています。

また彼女が短槍1つで手ごわい敵と戦っていく様は、多くの読者を魅了します。

4.作品の見どころ 現代社会との結びつきが強い

児童小説のファンタジーでありながら、扱うのは伝統の消失や子どもの反抗期、人間と自然の共生といった、私たちが生きる現代社会と繋がりの深いテーマが描かれています。

どれも簡単な解決策が見いだせない問題であるからこそ、発売から20年経った今でも多くの人に読まれています。

「精霊の守り人」の続編では宗教や民族の対立や神と人間の関わりなどが描かれます。

このシリーズで描かれることは決して空想のお話ではないのです。

5.海外からも高評価

「精霊の守り人」並びにその続編は今や日本だけなく、中国や韓国、フランス、イタリアなど、計8の国と地域で翻訳・出版されています。

特にアメリカの図書館では倫理的な条件が厳しいため、児童小説の翻訳出版が難しいですが、出版が認められただけでなく、2009年には同作でアメリカ図書館協会バチェルダー賞(児童図書翻訳賞)を受賞しました。

また2014年には、「精霊の守り人」を含むこれまでの作品に対し、「児童文学のノーベル賞」とも言われる「国際アンデルセン賞作家賞」を受賞しました。

日本人としては1994年のまど・みちおさん以来、2人目です。

6.メディアからも大注目

幅広い世代から支持を受けたことで、文庫版やコミックが出版された他、2007年にはNHKでアニメ化もされました。

「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の神山健治監督とプロダクションI.Gが手掛けたこともあり、大きな話題となりました。

また2016年からはNHK放送90周年を記念して、大河ファンタジードラマとして映像化もされました。

「精霊の守り人」を含む一連の「守り人」シリーズを全3シリーズに分け、2017年11月からはシーズン3が放送されます。

映像は全て4Kで撮影され、日本だけなく韓国でも撮影が行われました。

主人公バルサを綾瀬はるか、成長したチャグムを板垣瑞生、タンダに東出昌大、トロガイを高島礼子、帝に藤原竜也、聖導師に平幹二郎(シーズン3のみ鹿賀丈史)。

その他にも、吹越満、木村文乃、吉川晃司、高良健吾、林遣都など、豪華なキャストが集まりました。

「精霊の守り人」をただの児童小説ではない

不思議な世界観と普遍的なテーマで多くの人を魅了してきた「守り人」シリーズ。

その第1巻である「精霊の守り人」は、今でも幅広い年代の人に読み継がれています。

定年を迎え、時間に余裕ができたあなたもバルサやチャグムと一緒に、冒険へと出かけてみてはいかがですか。