美術にはいろいろなジャンルがある中で、ちぎり絵はシニア世代でも気軽に始められる表現方法の1つです。
和紙を使ったちぎり絵は独特の風合いを表現することも可能で、中には作品展を開くほど上達する人もいます。
1.シニアの地域サークルでも人気
絵を制作する際には通常なら筆やペンなどの道具を使って紙やカンバスに描きますが、ちぎり絵はいろいろな色の紙を自由な形にちぎって台紙の上に貼り付けることで絵を作るのが特徴です。
筆やペンではうまく描けないという人でも、ちぎった紙を貼り付けるだけのちぎり絵なら簡単に色鮮やかな絵が完成します。
本格的な油絵や水彩画・日本画を始めようと思えば画材も揃えなければなりませんが、ちぎり絵は材料となる紙と糊さえあれば誰でも手軽に始められます。
本格的なちぎり絵の制作に使うチャコペーパーや手芸用鉄筆・ハケなども、それほど高価な道具ではありません。
紙をちぎって貼り付ける作業は指先を使うため、脳が刺激されて認知症予防に役立つという点でもちぎり絵はシニアに向いた趣味です。
全国ではシニア世代を中心とするちぎり絵の地域サークルが数多く存在し、仲間同士で楽しみながら活動しています。
2.本格的なちぎり絵に使う和紙
ちぎり絵に使う紙は色とりどりの折り紙や新聞紙・包装紙など、身近にあるどのような紙を使っても作ることができます。
そうは言ってもちぎり絵の名人になると筆で描いた絵と見紛うほど精細な絵画表現を実現しており、使用する紙や道具も本格的なものを使っています。
ちぎり絵は日本画の一種として発展してきた経緯もあって、和紙を使用するのが一般的です。
パルプを原料とする西洋紙と違って、コウゾやミツマタ・ガンピといった植物を材料に作られる和紙は繊維が長く独特の風合いがあります。
濃淡が特徴の板締め紙やちぎった跡が毛羽立つ雲竜紙、凹凸に富む揉紙や重ね貼りに適した極薄紙、小さな穴のあいた落水紙などがちぎり絵によく使われる代表的な和紙です。
それらの和紙をちぎって台紙となる色紙に貼り付けていくことで、ちぎり絵が完成されます。
3.使用する道具と作り方の基本
紙と糊さえあれば誰でも手軽に始められるのがちぎり絵の特徴ですが、本格的な絵を作るには専用の道具があると便利です。
下絵を描くのに使う鉛筆や和紙を切るのに使うはさみに加え、指先についた糊を拭き取るためのタオルやおしぼりもちぎり絵を作るのに欠かせません。
糊にはでんぷん糊や化学糊などの種類がありますが、でんぷん糊の方が和紙にうまく馴染むので適しています。
ちぎり絵の制作方法は教室や講座ごとに異なりますが、色紙の上にチャコペーパーと呼ばれる水消性の複写紙を置いてその上に鉛筆や鉄筆で下絵をなぞる方法が一般的です。
その下絵に合わせてちぎった和紙を糊で貼り付け、はみ出した下絵は水で濡らしたハケで消していきます。
指で扱いにくいほど細かい和紙を貼ったり、貼った後の和紙を整えたりする場合は、目打ちと呼ばれる先端の尖った道具も使われます。
4.ちぎり絵の名人
ちぎり絵の起源は江戸時代に遡る一方で、本格的に行われるようになったのは昭和の戦後だと言われています。
日本画の分野としては歴史が比較的新しいちぎり絵にも、名人と呼ばれた先人が存在します。
放浪の画家として有名な山下清はその1人で、少年時代に知的障害児施設で出会ったちぎり紙細工が彼の美術的才能を大きく開花させました。
山下清は16歳の年に早くも東京の銀座で個展を開いて多くの人に注目されるようになりましたが、18歳の年から長年にわたる放浪の旅が始まります。
教育者・翻訳家として知られる亀井健三も、ちぎり絵の名作を数多く残した代表的な作家の1人です。
ちぎり絵の普及に尽力した亀井健三の功績によって、全国で今日に見られるようなちぎり絵サークルが広く見られるようになりました。
5.教室や通信講座で学ぶ
誰でも気楽に始められるのがちぎり絵の魅力とは言え、始めるからには少しでも早く上達したいものです。
独学ではなかなか上手に作れないという人でも、ちぎり絵教室に通ったりちぎり絵の通信講座を受けたりすることで上達が早くなります。
独特の肌触りを持つ和紙の扱い方や下絵の描き方、構図のテクニックなど、ちぎり絵を上手に作るための技法を学ぶことで作る楽しみも倍増するものです。
日本全国には1000を上回るちぎり絵教室が存在し、シニア世代を中心に多くの人が基礎からちぎり絵を学んでいます。
通いやすいちぎり絵教室が近くにないという人は、通信講座のテキストや書店で売られているちぎり絵入門の書籍を参考にしてみるといいでしょう。
気の合った仲間同士でちぎり絵サークルを開き、互いの作品を鑑賞し合うのも1つの楽しみ方です。
ちぎり絵作品展や展示会なども全国各地で開催されており、同好の人たちが交流する場となっています。
シンプルかつ無限の表現方法のある「ちぎり絵」
紙をちぎって糊で貼り付けるだけというシンプルな方法のため、ちぎり絵は表現の幅が限られているように思いがちです。
実際には驚くほど多彩な表現が可能で、作り手1人1人の個性が作品に反映される点では油彩画や水彩画にも劣りません。
子供から高齢者まで広く親しまれているちぎり絵は、初心者にもハードルが低い趣味です。