『みをつくし料理帖 』は女性が料理で身を立てるなど考えられない江戸時代、大阪からやってきた澪という一人の女性が料理人として、人間として成長していく様子を描いた物語です。
多くの料理が登場し、また澪の周囲の出来事が描かれ、文庫本10冊があっという間に読み切ってしまいます。
1.『みをつくし料理帖 』あらすじ
大阪に生まれた澪は子供の頃、洪水で両親を亡くします。
そのとき、父親が商品を納めていた船場吉兆庵で下働きとして面倒を見てくれることになりました。
吉兆庵の亭主は板前としても腕も良かったのですが、澪の舌が素晴らしいことを見抜き、料理を教えます。
その後、亭主が亡くなり、江戸に支店を出した長男からの連絡が無くなったことから、吉兆庵の御料さんと澪は江戸へ出ることになります。
江戸へ出てみると支店はとっくに閉店となり、長男の行方も解りません。
とりあえず、長屋に住まいを決め、澪は「つるや」という小料理屋で働くことになります。
ここから、多くのストリーが紡がれていきます。
2.大阪と江戸の違い
現在でも大阪と東京では、料理の味も材料もかなり違います。
江戸時代もそれは同じでした。
まずは、出汁が違います。
江戸は鰹節が中心ですが、大阪は昆布でとります。
また、武士の都市である江戸では、キュウリを食べません。
なぜなら、切り口が葵の紋に似ているからです。
それを知らずに調理して出してしまった澪は、残されたキュウリを見て、首を傾げます。
理由を教えて貰うと、それでは形が見えなければ良いと、キュウリをすりこぎ棒で叩き、形を崩した後、酢で和えるという料理に変えます。
また、戻り鰹を下魚と言って食べない江戸の人たちに、名前を知らせず調理します。
それが美味しいと評判になったりします。
3.料理番付に名前が載ります
何にでも順位を付けるのが好きな江戸では、料理番付というものがあります。
いつも、一番の登竜楼という料理屋があるのですが、ここが澪にライバル心を燃やします。
アンフェアな方法も平気で使い、スパイを送り込んだり、放火までします。
しかし、澪の考える料理はいつも上位に食い込んでいくのです。
そして、その人柄からスパイとして入り込んだ女の子も自分の味方に付けてしまいます。
4.恋もします
若い女性ですから、もちろん恋もします。
澪が働く小料理屋「つるや」に時々現れる武士がいます。
お互いに好意を持っていますが、身分が違います。
しかも、その武士は将軍の食事を賄う御膳奉行という重職にありました。
それでも、澪と結婚したいと、いろいろと方法をこうじます。
いよいよ、ある武家に澪が養子に入り、御膳奉行との結婚が決まりかけたとき、澪はその結婚を断ってしまいます。
自分は料理を辞めることはできない、世話になった吉兆庵の長男もまだ見つかっていないと、いくつかの理由がありました。
5.幼なじみも大切にします
大阪での子供時代、澪には親友の女の子がいました。
しかし、洪水でこの子も行方が解らなくなってしまいました。
ところが、吉原で一番の花魁になっていたのです。
直接会うことはできませんが、澪の作る料理を吉原の男衆が持って帰ってくれます。
「つるや」が放火されたときにも、花魁から多額の見舞い金が届きました。
吉原では桜が満開になると、一般の人たち(もちろん女性も)を中へ入れて見物させてくれます。
そのとき、澪も吉原へ行き、幼なじみの花魁と障子越しで会うことができました。
それは、僅かに開いた障子から花魁が手で狐を作ってこんこんとうなずいて見せたのです。
幼い頃、二人で遊んだ思い出でした。
6.澪は商売も上手です
いろいろな経験をしながらも、澪が働く「つるや」は繁盛していきます。
更に、自分の考えたものを吉原で売るなど、商売のアイデアもたくさん持っているのです。
密かに、お金を貯めて親友の花魁を苦界から助け出そうとさせ思っている澪です。
7.料理のレシピが巻末に記されています
10冊の文庫本の最後には、その巻で澪が料理したレシピが記されています。
現在でも使えるものです。
調味料などは、江戸時代と違いますから、代わりはこれが良いというアドバイスまであります。
1冊読んだ後に、作って見るのも一興です。
今日は「みをつくしメニュー」だよ、などと言って夕食に出してみましょう。
8.最後はハッピーエンドです
このような小説は、往々にして悲しさが残ることが多いのですが、これは最後はハッピーエンドです。
行方の解らなかった長男は濡れ衣を着せられて隠れていただけでした。
御料さんも、望まれて料亭の女将さんになります。
一番好きだった人を諦めた澪でしたが、澪のことをずっと思い続けていた人がいたのです。
それは、御料さんの病気を診てくれていたお医者様でした。
最後には、その人と大阪へ帰ります。
何度も読み返したくなる「みをつくし料理帖 」
江戸へ来てから、澪の周囲には本当の多くの人が集まりました。
長屋の家族や「つるや」の常連達、澪を目の敵にした人たち、吉原の人たち。
良い人たちには助けられ、目の敵にする人には、負けまいと立ち向かいます。
そして、恋をして涙して。
これこそ小説の醍醐味というくらいに内容も盛り沢山です。
何度も読みたいという小説は、余りありませんが、このみおつくし料理帖は2度と言わず、何度でも読み返したくなる小説です。