東京都庭園美術館(港区)は総理大臣仮公邸や迎賓館としても利用!アール・デコ様式の室内装飾を間近で見る

最終更新日:2017年11月23日

西洋風の優雅な生活様式や洋館をモチーフとした邸宅は、一般庶民にとって憧れの対象です。

東京都港区にある東京都庭園美術館は旧朝香宮邸を一般公開している都立美術館で、華麗な室内装飾の美が間近で鑑賞できます。

1.旧朝香宮邸を美術館として公開

旧朝香宮邸は朝香宮鳩彦王がパリから帰国後の昭和8年に建てた邸宅で、今上天皇の大叔父に当たる朝香宮鳩彦王の皇籍離脱後に首相公邸や迎賓館として使用されてきました。

現在ではこの旧朝香宮邸が東京都庭園美術館として一般公開されており、1993年にはその本館が東京都の有形文化財に指定されています。

2015年には本館と茶室・倉庫・正門などが国の重要文化財にも指定され、庭園や塀も含むおよそ3万平方メートルの宅地全体も重要文化財の対象です。

特に本館は「アール・デコの館」とも称されるほど、アール・デコ様式の装飾デザインが邸内の至るところに施された近代建築の傑作となっています。

美術館は建物そのものが著名な建築家のデザインによる建築作品となっている例も少なくありませんが、東京都庭園美術館はもともと宮家の邸宅として実際に使われていた建築物です。

由緒ある邸宅そのものを美術品として鑑賞する東京都庭園美術館は、特にシニア世代から人気を集めています。

2.アール・デコ様式の近代建築

東京都庭園美術館で最大の特徴は、何と言ってもアール・デコ様式を全面的に取り入れた本館の内装デザインです。

地上一部3階建ての本館は1階が玄関から大広間・次間・大客室・大食堂へと続き、接客用の広々とした室内空間が展開されています。

殿下書斎・居室・寝室や妃殿下居室・寝室などの私室が配置された2階から3階では、北の間やベランダ・ウインターガーデンといった個所も見逃せません。

それらの私室もすべて洋間となっており、来客を迎え入れるための1階とプライベートな生活を楽しむための2階が使い分けられていた様子も窺えます。

旧朝香宮邸を特徴づけているアール・デコ様式は、1910年代から1930年代にかけて欧米各国で流行した装飾デザインです。

19世紀末から20世紀初頭にかけてのヨーロッパを席巻したアール・ヌーヴォー様式と比べ、アール・デコ様式は幾何学的な図形表現や原色対比による色表現を特徴とします。

3.著名なデザイナーによる装飾の数々

旧朝香宮邸はフランスの芸術家アンリ・ラパンが室内基本設計を担当しており、小客室の壁面や大客室の上部木製ボード・大食堂には同氏の油絵が描かれています。

正面玄関にはフランスのガラス工芸家ルネ・ラリックによるガラスレリーフ扉が配され、大客室シャンデリアや大食堂の照明器具にも同氏の精巧なデザインを見ることができます。

《戯れる子供たち》と題するイヴァン=レオン・ブランショの大理石レリーフは、大広間の中央階段で一際目を引く作品です。

東京都庭園美術館の本館内にはこの他にも数々の美術品が室内装飾と一体化する形で展示されており、訪れた人の目を楽しませてくれます。

照明器具や家具・窓・床に至るまで1つ1つ美術品として鑑賞できる点が、アール・デコ様式を大々的に取り入れた旧朝香宮邸ならではの醍醐味です。

4.総理大臣仮公邸や迎賓館としても利用

陸軍の軍人でもあった朝香宮鳩彦王は明治39年に朝香宮家を創設後、大正11年には軍事研究を目的としてフランスに留学しました。

朝香宮鳩彦王はフランス滞在中の自動車事故で重傷を負い、看病のため渡仏した允子妃とともに同地で長期滞在することとなります。

パリ滞在中に朝香宮鳩彦王はアールデコ博覧会とも呼ばれた1925年のパリ万国博覧会でアンリ・ラパンやルネ・ラリックの作品に接し、帰国後に彼らの協力を得てアール・デコ様式の邸宅を建てることになります。

朝香宮鳩彦王は昭和22年にGHQの命令により皇籍離脱となりましたが、残された旧朝香宮邸は政府が借り受けて時の首相・外相だった吉田茂の仮公邸として利用されました。

白金プリンス迎賓館として使用された時代を経て東京都に売却された旧朝香宮邸は、昭和58年に都立美術館として一般公開の運びとなったのです。

5.庭園のみの入場も可能

建造された昭和初期の時代からほとんど改造されていない旧朝香宮邸は、当時の最先端の文化様式が窺える貴重な近代建築の歴史的建造物です。

内装デザインや調度類も含めた建物全体が芸術作品となっているだけに、東京都庭園美術館は室内そのものを美術品として鑑賞することに大きな意義があります。

一般の美術館と違って所蔵美術作品の常設展示はありませんが、室内装飾と一体化したアンリ・ラパン作の油絵などは常設展示作品に該当するとも言えます。

期間を限定してのさまざまな企画による展覧会が本館または新館で随時開催されている他、現在は整備工事が行われている庭園も一般公開の対象です。

庭園のみの入場料は一般100円ですが、第3水曜日はシルバーデーとして65歳のシニアに限り無料で入場できます。

武蔵野の面影を残す自然教育園も隣接していますので、東京都庭園美術館訪れたらこちらにも立ち寄ってみるといいでしょう。

東京都庭園美術館は一般人にとって貴重な場所

日本国内に残るモダニズム建築の文化遺産の中には、一般公開されていない例も少なくありません。

映画や写真でしか見る機会がなかったアール・デコ様式の室内装飾を間近で見るのは、シニア世代にとってもまたとない社会勉強になります。

東京都庭園美術館は一般の人が旧宮家邸宅の室内を見ることのできる貴重な場所です。