司法書士とは、一言でいえば「町の法律家」です。
具体的には、法務局において、不動産や会社に関わる登記手続の申請を行うのが主な仕事です。
しかし、実際の業務は登記のみではありません。
簡易裁判所での訴訟代理人、成年後見人、さらに法律相談など、身近な法律問題に取り組むことが司法書士の仕事です。
法律の専門家と言えば弁護士が頭に浮かびますが、やはり弁護士の絶対数は少なく、普通の人にとって弁護士に依頼することは敷居が高いものです。
そういう意味で、頼りになる「町の法律家」としての司法書士の役割は大きいといえます。
1.資格試験の内容
まず受験資格を取らなければならない司法試験と違って、受験資格に制限はありません。
学歴、年齢、性別に関係なく誰でも受験できます。
試験は筆記試験(7月)と口述試験(10月)とから成り、毎年一回実施されます。
筆記試験は午前の部と午後の部から成ります。
科目は多岐にわたっています。
午前の部(マークシート) 「憲法」、「民法」、「刑法」、「商法」。
午後の部(マークシート) 「不動産登記法」、「商業登記法」、「民事訴訟法」、「民事執行法」、「民事保全法」、「供託法」、「司法書士法」。
午後の部(記述式) 「不動産登記法」、「商業登記法」。
口述試験 「不動産登記法」、「商業登記法」、「司法書士法」。
2.資格試験の傾向
試験の内容を見ると、非常に難しい試験に見えます。
司法書士試験は確かに難関ですが、しかし、すべての科目を完璧にこなす必要はありません。
ポイントとなる科目は、午前の部(マークシート)では「民法」と「商法」。
午後の部(マークシート)では、「民事訴訟法」と「不動産登記法」と「商業登記法」。
マークシートでは、他の科目の比重は大きくありません。
司法書士試験の中核となるのは、午後の部(記述式)です。
この記述式では、「不動産登記法」、「商業登記法」の登記申請書の記載事項が問われます。
事例に合わせて、実際の登記申請の実務を行う能力が問われます。
この記述式が司法書士試験の最大の難関です。
筆記試験に合格すると、最後に口述試験を受験せねばなりません。
面接の形式の試験を受けなければならないわけですが、恐れる必要はありません。
実は口述試験は基本的に合格させてもらえる試験です。
かなり形式的なもので、試験官の誘導に従って、常識的な対応をすれば合格できます。
なお、ここ数年司法書士試験の志願者が激減しています。
平成22年の33166人をピークに減少を続け、平成28年では20360人です。
司法試験も出願者の減少が続いています。
法科大学院制度の失敗から、法律を扱う仕事に対して、ネガティブなイメージが広がったためとも言われています。
しかし、司法書士試験の場合は、受験料が値上げされたことが大きな要因でしょう。
司法書士に対する社会的評価が低下したとは言えません。
同時に、試験の難易度が低下したとも言えません。
受験料が値上げされたという理由で去った人が多いのですから、上位の受験生のレベルには影響がないからです。
3.司法書士の仕事
何といっても、司法書士の仕事の中核となるのは登記業務です。
不動産登記は、家や土地等の所有権等の権利を登記してその権利を守る役割があります。
また、商業登記は、会社名や代表者に変更があった場合にそれを登記して経済活動の安全を守る役割があります。
このように、司法書士の仕事は弁護士の仕事と比較すると、防衛的な仕事と言えます。
近年、高齢化の進展に伴い、成年後見業務も重要度を増しています。
判断力の低下した高齢者の財産管理を支える成年後見人として、権利を擁護する業務が重要度の増しているわけです。
さらに、制度改革によって、司法書士が法廷で活動する道も開かれています。
一定の研修と考査を受けた司法書士は、認定司法書士として簡易裁判所で訴訟代理人として活動することができます。
特に、140万円以下の訴訟は簡易裁判所の管轄であり、比較的少額の紛争解決に認定司法書士の活躍が期待されます。
4.司法書士の魅力
何よりも独立できるということでしょう。
企業で働く限りは定年があります。
しかし、この仕事には定年がありません。
この仕事では意欲があれば、生涯現役として活躍できます。
合格者の平均年齢は35歳前後です。
つまり、社会人としての経験を積んでから、一念発起して司法書士を目指す人が多いわけです。
40代の合格者は4分の1を占めています。
また、60歳以上で現役の方も珍しくありません。
さらに、特筆すべきことは女性の進出の目覚ましい分野だということです。
平成28年では、合格者の23.8パーセントが女性です。
女性が結婚や出産のためにキャリアを犠牲にしなければならないという現状は変わっていません。
年齢、性別に関わらず挑戦できる資格試験である司法書士は、その点でもアドバンテージがあります。
5.司法書士の働き方
司法書士試験の記述式試験の問題は、登記申請の実務を行う能力が問われます。
資格試験と実務が直結しているわけです。
一部の国家試験のように、一定の研修が要求されるわけではありません。
そのまま独立開業が可能です。
そうは言っても、実務の経験を積む必要はありますし、資金と人脈がなければ、現実には即独立ともいきません。
そこで合格後の就職先としては、まず司法書士事務所があります。
多数の有資格者を抱え、会社として業務を行う大手事務所から、少数の従業員でやっている小さな所まで、様々なタイプの司法書士事務所があります。
それ以外にも、弁護士事務所や税理士事務所などでも、司法書士と他の法律関係の士業の人との協業は珍しくありません。
さらに、その他にも企業の法務部への就職も考えられます。
気になる収入についてですが、これは個人の能力によるとしか言えません。
ただし、参考までに例をあげると、事務所に勤めた場合で、30代で年収600万円程度、一般企業に勤めた場合で、会社にもよるが、年収1000万円を超える場合もあります。
一方で、事務所勤めで年収300万円程度という例もあります。
独立開業までの修行期間だから、その程度で我慢せよということです。
その事務所で不可欠の人材となれば、また、まったく話は違ってくるわけです。
もちろん、独立開業した場合は、成功さえすれば収入は青天井ということになります。
これまでの知識を活かし、得意分野を持った司法書士を目指そう
さて、最後に司法書士を目指す意味はなんでしょうか。
もちろん、人それぞれでしょう。
しかし、すべての人に言えることは「やりがい」ということではないでしょうか。
司法書士は法律の専門職です。
難関の資格試験を突破しなければなれません。
プロとしてのプライドをもって仕事をすることができます。
単に登記の専門家というにとどまらず、認定司法書士として裁判業務を行うこともあります。
最近では下火になりましたが、過払い金請求訴訟では多くの司法書士が活躍しました。
人から感謝される仕事ということです。
中高年、高齢者、女性といった社会的にキャリアの構築の難しい人にも就業の道が開かれています。
やる気さえあれば、末永く働ける仕事ということです。
金銭的な面を見れば、収入は実力次第のリスクのある仕事ですが、その一方で少ない資金で独立開業できる仕事でもあります。
何よりも、非常に多くの人に対して門戸が開かれた仕事であると言えます。
この文章を読んだ方は、一度挑戦を検討してみてはいかがでしょうか。